24歳

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24歳

「……というわけだ」 「なるほど。全部思い出しました」 「顔が嘘っぽいぞ」 「信用してください」  僕は10年振りに会った担任と地元の喫茶店に座っていた。 「授業中に親から電話が来て驚きましたよ。しかも『今度帰ったら先生に会え』とかって」 「ああ、ご実家が引っ越してなくて助かった」  担任は僕の実家の住所を探して電話をかけてくれたのだ。 「で、立派にやってんのか」 「まあ、はい。先生ほどではないですが」 「当然だろ。キャリアが違う」  そう言って彼は笑った。 「ま、でもこれで俺は生徒の信用を損なわずに済んだよ」 「ありがとうございます」  僕がお礼を言うと、顔のしわが随分増えた担任は「こっちのセリフだ」と笑った。 「あの時、本当は教師辞めようと思ってたんだが」  彼は苦笑した。 「お前のせいで辞められんくなった」  その表情は、10年前と変わらない。 「生徒に頼られる先生になるのが俺の夢だったんでな」  お前も頑張れよ、と彼は会計をして帰っていった。  僕は手紙を開く。  ――あなたの夢は何ですか?    僕の夢。  それは10年前の担任の言葉がきっかけだった。  "人の夢を叶えたい"。  それは自分がゴジラになるよりも大きくて難しい夢だぜ、10年前の僕。  教師になった僕は、心の中で得意げに言った。 (了)
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