あい、あい、あい。

2/2
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 ***  そう。  私は、十年前のあの日を、生涯忘れることはないのだろう。  何故ならあれからずっと――あの日のことを、後悔しなかった瞬間などないのだから。 「瑞穂さーん?」  がちゃり、とドアが開くと同時に、闇の中に光が射し込む。彼の声が聞こえるたび、恐怖を覚えるのに――同じだけ安堵する理由は一つだ。 「お、お、お願い、毅さ……もう、限界なの。これ、解いて……頭が、おかしくなる……!」  逆さ吊りにされた状態で、私は懇願する。私の足首を戒める縄を解けるのは、彼だけ。夫という身分になり、私を寿退社させ――以来家に監禁し続けている彼だけだ。 ――ああ、どうして!付き合ったこともない男と私は結婚してしまったの……!  戻れるならば、十年前のあの日の戻りたい。あの日の自分に逃げろと言いたい。  こんな風に、彼の本性を知り、人生を壊されるその前に。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!