貴女を殺したのは貴女

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右目の下には生まれつきの痣があり、左頬の皮膚には痛々しい火傷の痕が残っている。 さらに中学の頃からいじめを受けていたせいで、体中が痣だらけの上にデブな私は、誰もが認める程に醜い姿をしていた。 「貴女の命は10年後にこの世界から消えるの」 ある日の街中で、フランス人形のように美しい女性が突然声をかけてきた。 新手の詐欺だろうかと思い、無視を決めて彼女の横を素通りする。 「藍川結衣(あいかわゆい)」 「……どうして私の名前を知ってるんですか?」 けれど彼女が、突然私の名を呼ぶものだから思わず足を止めた。 彼女は何故か切なげに顔を歪めていた。 「それは貴女の名前であり、私の名前でもあるから」 「はい?」 「私は10年後の貴女よ」 信じられるはずがなかった。 誰もが羨むであろう美しい姿の彼女が、10年後の私だなんて。 けれど彼女は、私であることを証明してくれた。 一番の決め手は復讐ノートだった。 10年後の私が持っていた復讐ノートは、手垢でボロボロになっていたが、私の書いた文字だった。 「嘘…10年後の私はこんなにも美しくなって…復讐は!?あいつらへの復讐はどうなったの!?」 興奮して仕方がなかった。 私が今を生きているのは、いじめてきた奴らに復讐をするためだ。 「お願いだから馬鹿なことはやめて」 けれど彼女の目には、今にも泣き出しそうな程の涙が溜まっていた。 「復讐したところで私に何も残らない、命すらもね。私は10年前の私を変えるためにここに来たの」 「馬鹿なこと…?私はずっと苦しめられてきたの、復讐をしないと気が済まない!」 「お願いだから普通の人として真っ当に生きて。変われたところで、私たちはいじめとは別の被害を受けることになるの」 やはり彼女が10年後の私というのは嘘だ。 復讐が叶ったのなら、喜ばしいことに決まっている。 整形してここまで美しくなったのなら、もっと幸せな笑顔で満ち溢れているはず。 彼女がまだ何か私に訴えかけていたけれど、時間の無駄だと思いバイト先へと向かう。 けれど本当に10年後の私が彼女だとしたら? 醜いと言われ続けていた私があそこまで変われるのだとしたら、天は私に味方してくれたのだ。 「───嗚呼、本当に私たちは気の毒な運命を辿ったものね。ごめんなさい、10年前の私に会えたというのに、助けることができないまま命を絶つ選択をとってしまって」 美しい彼女が涙を流して嘆いているのを知らずに、明るい気持ちのまま目的地へと足を進めた。
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