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十年卵
十数年以上もの長い間地中で生息し、成虫になるセミがいるという。
「十年卵」の名前をはじめて聞いたとき、そんなことを思い出した。そんなに長い間暗い地中にいて、退屈はしないのか怖くはないのか。むしろ不安のない、安泰した時間なのか。
政府から、国民一人につきひとつずつ配布されたのが、今私の目の前にある「十年卵」だ。
卵型の冷凍冬眠シェルター。これに入って、我々は十年間眠りにつく。
想像もしていなかった、いや、いつか起こると思われていた宇宙戦争が過激化して、世界中が核で汚染された。
最新技術によっても、大気や大地の洗浄が終わるまで十年掛かるとされている。
その間、我々はシェルターの中で眠りながら待つのだ。
騙されるな。これは政府の陰謀だ。
例え十年経ったとしても、我々をちゃんと目覚めさせてくれるという確信がどこにあるのか!!
多くの人々が、そう叫んだ。
かと言ってこのままでは、飢餓で放射能汚染で苦しみながら死んでいくすぐそこの未来しか見えてこないではないか。
ならば私は十年後の未来に賭けよう。
青い空と緑の大地、その中で目覚めて大きく深呼吸をする自分を思い描いて ──。
私はそう決意した。
シェルターの蓋を開く。
さて、キミはどうする?
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