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十年前からの電話
スマホが鳴っていたので、電話に出た。
「もしもし?」
「俺だ! 緊急事態だ!」
聴き慣れぬ男の声だった。
「切るな、切るなよ! ことは一刻を争う。落ち着いて聞いてくれ、なぁ。俺は十年前からタイムスリップしてきて、今の時代のお前にかけてるんだ。そうだ、未来の自分にだ!」
「はぁ」
「タイムスリップできる科学兵器が紆余曲折を経て俺の手元にある。組織に追われてるんだ。世界を救えるのはお前だけだ、頼む。助けに来てくれ」
「はぁ」
「いいか、よく聞いてくれ、今からお前は外に出る。三十七秒後に黒塗りの車が走ってくるから──まて! 話を最後まで聞けよ、俺! それには乗るな。それは組織の奴らだ。それは無視して、黒塗りの車を追いかける銀のセダンに乗り込め。わかったな。説明する暇はない! 合図したら飛び出せ」
「あのですね」
「なんだ、世界の一刻を争うんだぞ!」
「僕、十年前は生まれてないです」
ツーーーーーー。
スマートフォンが切れた。
少年は一度端末を耳から離して、もう一度当てて、何も聞こえないのを確認して、手元に置いた。
昨日母親が捨てたゴミ箱のチラシに手を伸ばす。
『“十年前のオレオレ”詐欺に注意!
騙されないで、それは誘拐です!
過去の自分と合言葉を決めて!』
「そうだ! お母さんが帰ってくる前にタイムモンスターの続き見ようっと」
少年は言って、テーブル近くのカプセル型の箱の中に入る。
タイムモンスターが放映していた時代に、西暦ダイヤルをセットした。
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