はじまらない

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待ちに待った土曜日。 駅で待っていると、 「よっ。」 後ろからいきなり声がした。 「ゆ、ゆう兄っ!びっくりさせないでよ!!」 「無防備な後ろ姿みたらつい、ねぇ?」 「もぉぉ!!」 「ふふっ、相変わらずだね、翔は。」 可愛い、なんて呟きながら俺の頭を撫でる。 うぁぁ。顔が一気に赤くなるのを自覚して、見られないようにそっぽを向いた。 照れ屋さんも変わんないね。笑いながら言うゆう兄に、ばかぁぁと叫びながら荷物を奪い取る。 「早く家行こ。」 ゆう兄は、そーだね、と頷いた。 ゆう兄の家はもう何年か前に壊されていて、そこを通るといつも悲しくなる。 引っ越してから、ゆう兄が日帰りで来る時以外はいつも俺の家に泊まる。今回も親に許可をとって、うちに泊まることになっていた。 荷物を運び込んで、何しようか、なんて話をする。やりたいことも言いたいことも沢山あるのに、いざ会うと分からなくなって。結局いつもみたいにゲームをした。俺はバトルゲー厶が好きで、ゆう兄はホラーゲー厶が好き。俺は怖いのが苦手だから、途中でリタイアしてしまう。それも変わんなくて。怖くなってゆう兄の腕を掴と、 「翔はほんと可愛いね。弟みたい。」 その言葉に、胸が痛んだ。 今日は夕立がなくて、家の中は酷く蒸し暑かった。 「ゆう兄、散歩行かない?」 「こんな時間に?」 「ん。前みたいに星、見に行きたい。」 「ああ、そうだね。行こっか。」 「うん。」 ちらっと時計を見ると10時。田舎だし、大丈夫だろう。 「星、結構見えるね。」 「うん。お月様も綺麗だね。」 その言葉に、ゆう兄の顔覗き見る。いつもと変わらぬ表情。俺の視線に気づいて、ん?と不思議そうな顔をした。なんでもないと首を振り、そのまま歩いていると、ゆう兄が口を開いた。 「ねえ、あそこ行こっか。芝生の所。」 そう言って、俺の手を引いて走り出す。 何処だっけ?なんて考えながら、俺も走った。 「ここここ。懐かしいなぁ。」 辿り着いたゆう兄は、いきなりそこに寝転んだ。あ、ここか。寝ながら星を見るのに憧れて、昔探し出した特等席。俺も寝転んで、空を見上げる。満点の星空。ああ、 「星が、綺麗ですね。」 自然と溢れ出たその言葉。言ってから、あ、と気づく。一気に顔が赤くなって、言い訳の言葉すら出てこない。言いたくて、何回も練習して、結局言わないことにしていた言葉。 「あの星座、知ってる?あれは、こぐま座。」 ゆう兄が空を指す。一瞬なんのことかわからなくて、聞こえなかったのかな、と安堵のため息を着く。だけど、その気持ちは悲しさに変わっていった。 「ゆう兄のバカ……。」 「ん?なんか言った?」 「……。うんん。なんにも 。」 小さな声でもらした本音は、誰にも届かず消えていった。虚無感が襲いかかってきて、どうしようもなくなる。ああ、もうやだ。 「ゆう兄っ」 言いながら抱きつくと、驚いたように声を上げる。そして笑いながら、よしよし、と頭を撫でてくれた。優しさが痛い。痛いけど、嬉しくて。込み上げた嗚咽を、我慢できずにしゃくり上げる。ゆう兄は頭を撫でながら、優しく抱きしめてくれた。 寝転がりながらだったせいか、疲れていたのか、翔は寝てしまった。可愛い寝顔に笑みがこぼれる。変わんないなぁなんて考えながら、さっきの言葉を思い出した。 翔が俺に好意を寄せているのは知っていた。俺も、翔のことは好きだ。でも、その気持ちが恋なのかは分からない。それに、恋だとしても、きっと答えてはやれない。こいつのためにも。ごめんな。 翔の頬をなぞる。相変わらず気持ちよさそうに寝息を立てていた。 「無防備なやつ。」 くすっと笑い、そっと唇をくっつける。柔らかく、湿った感触。そっと、舌を動かす。少し躊躇って、そのまま進め、翔の口内に入ったところで、直ぐに舌を戻した。 「翔のファーストキス奪っちゃったかな?」 おどけて独り言を言ってみても、顔の熱さは引かなくて。もうっ、と物に当たるように、翔の頬を小さくつねる。 「ん?あ、あれ、おれねちゃった?」 なんにも知らない寝ぼけた声に、 「もう夜だから帰るよっ!!」 照れ隠しに叫んだ。
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