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俺たちはアンドロイド。冥王星まで派遣された。往復に十年かかるらしい。
「ファイ、それにしても長い遠足だな。冥王星ってあの遠くに見えるやつだろ?」
「ネオ、そんな子供みたいなこと言わないで欲しかったな。デートって言葉知らないの?」
この時、ファイは妙によそよそしくそういった。普段と違った様子に俺は不安になる。
「デートってなんだ?俺の辞書には戦いと分析に必要な物以外は登録されていないんだ」
すると、むっと怒り顔になる。ひどく悪い予感しかしない。
「じゃあ、遠足につきものの『おやつ』くらいは知ってるわよね」
「いや、知らん。どういう意味なんだ?」
何か悪いことをしたのだろうか、俺はそのあとに続くファイの言葉に、俺自身の命の危険を感じたのだ。
「古文書では八つ時(午後2時から4時)の間に食べるものを指すらしいのよ」
……拷問所では八つ裂きの間に食べるものを指す?ファイにはそんな拷問をしながら悠長に何かを食す趣味が?
「わたしは和菓子を望んだ」
……ファイは我が死を望んだだと?ファイは殺すばかりではなく死の願望があるアンドロイドなのか?
「脂肪が多いのは好き」
……死亡が多いのは好き?つまりそれは自分が死ぬ前に大量虐殺しないと気が済まないということなのか?
「だけどうかうかしてると太るしね」
……だけど鵜飼う菓子TERUと太る死ね?暗号のようだがとにかくそら恐ろしい。
冥王星までの往復はあまりにも長い。本性を現したファイの前に酷く不安になってきた。十年後の俺よ、お前はこの壮大な遠足を生き延びているのか。
「よかったら切り分けましょうか?」
そう言ってファイは包丁を取り出した。
「Σ(||゚Д゚)ヒィィィィ!!」
俺は宇宙船の中を逃げ惑う。
「どうしたのよ、ネオ」
ファイは屈託のない笑顔で俺を追いかけてくる。その悪気のなさがやばすぎる。アンドロイドの俺でさえ、ついに死を意識した。
「半殺しとみなごろしがあるんだけど」
((((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
「ふたつに分けて、どっちも味わいたいの」
……おおお俺は上半身と下半身が分断されそれぞれじわじわと食われてしまうのか!
「いいでしょ、ネオ」
そういって俺を殺る気満々のファイが差し出したのは、青紫色をした団子状の『我が死』だった。
――その名を、ファイは「おはぎ」と呼んだのだった。
(了)
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