十年後の君とあたしへ

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私は途方に暮れていた。「十年後の君へ。この手紙を見ている頃、私はこの世にいないだろう」 だからと言って焦って置手紙なんか残さなくていいじゃない。「うん、確かにいなくなっちゃったね」 四十九日が済んでようやく落ち着いた頃、遺品の整理に取り掛かった。 よくわからない骨董品や古文書で埋もれた書斎は、門外漢の私たちにとってゴミ屋敷も同然だった。 特殊清掃業者がバタバタ出入りするなか、例の書置きが出てきたのだ。 「まさか十年も保存すると思ったのかしら」、と母は呆れる。 父はその界隈では著名な蒐集家らしい。「これは一寸、私共の手に余ります」 業者が泣きそうな顔で引き揚げたあと、母と文句を言いながら整理された遺品を仕分けした。 まず、売れそうな物とどうにもならないゴミと値段のつかないくらい貴重な文化財に分ける。 ITに疎い母に成り代わって私はてきぱきと遺品を出品した。骨董品はスマホがお宝鑑定して出品ページまで作ってくれるので楽だ。着信がピコピコ鳴る。飛ぶように売れていく。 売上残高がぐんぐん増えていく。母はそれを見て少し慰められたようだ。 「だって本当は邪魔でしょうがなかったの」 母、厳しい。古書の正体は魔導書の類らしく、これも好事家が大人買いしていく。 最後に残ったのが、正体不明の洋酒と巻物だ。 「どうしましょう?」 父の遺書によれば知り合いを集めて追悼の宴をして欲しいという。 母と相談の上、父の会社の人を呼んだ。所が彼らはお酒を持ち込んだので飲んでも飲んでも減らない。明方まで飲んで続きはまたの機会という事でお開きになった。 「もう来ないで欲しいわ」 うんざりした母は酒瓶を逆さにした。すると濛々たる煙が立ち込めて魔神が現れた。 「ならぬ!酒宴を続けよ」 神様のいう事なので逆らえず私たちは月一で泣く泣く続けた。残りのお酒はなかなか減らない そんな暮らしが1年続いた頃、魔神がお開きにしようと言った。 私たち母娘は小躍りした。最後に神様が褒美をやると言った。そして呪文を唱えるとなんと父が生き返ったのだ。「貴方、死んだと思っていたのに」、落涙する母。 「ああ、お前たちよく頑張ったね。私は酒の女神に呼ばれたのだ。十年分の酒を1年で掃いた。娘よ。おめでとう。君は次代の酒神だ」 なんてことだ…十年後のあたしへ。元気してる?お酒はほどほどにね
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