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十年前、僕は選択を誤った。ここで彼の手を取ってしまったから、僕は死んでしまったんだ。優しさが仇になった良い例だろう。僕がもう少し冷たい人間だったら、あいつを助けようとしなかったのに。
自殺しようとする見ず知らずの男の手を掴まなかったら、僕は今も生きて、何気ない日常を過ごしていたはずなんだ。
交通事故に遭ってからはや十年。不思議なこともあるもので、僕の魂は過去へと飛んだ。幽体になったら時間の概念がなくなるのだろうか。
しかし、そんな考えてもわからないことにいつまでも囚われているわけにもいかない。このチャンスを無駄にしてしまったら僕は生き返らない。まだまだやりたいことがたくさんあるんだ。
僕は、生きるために君に干渉したいのに、今の僕には声どころか物にも触れない。ああ、なんて不便なんだ!
自殺しようとする男の手を取って、逆に引っ張られてしまった僕。どうか、どうかあの手を掴まないでほしい。
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