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Hello…10年後のキミ
10年後。
私の身体は、病院のベッドの上で脳死判定を受けた。
「では、同意書にサインを」
重低音の声が事務的にそう言うと、「はい」と返事をする父の気落ちした声が、母のすすり泣きが聞こえてくる。
カチッというペンの芯を出した音が、耳に届いた。
私はもう、考えることも伝えることもできない。
だが音だけは、鼓膜を震わせて届いた。
「明日香! 早く目覚めろ~!!」
「皆、明日香ちゃんのこと待ってるよ!!」
「これからまだまだ楽しいことがあるんだからさ、諦めんじゃね~ぞ!!」
病室にずっと流されていた声。
記憶に残る、同級生達の声だ。
失われたなんて嘘だ。
皆の心は、変わらずそこにあったのだから。
私という個体は、じきに解体される。
ドナーを待つ、未来に望みある人へと移植され、第二の人生を歩む為に。
―― Hello……
意識が無いにも関わらず、涙が一筋、頬を伝った。
END.
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