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10年後のキミへ
僕がキミに触れ合うなんてことは当然ないわけだけれど、きっと僕はキミになれているだろうね。
キミになった僕の感想はどうだろうか。突然キミになるわけではないから、そんなこと言われても驚くばかりだろうか。
僕とキミは連続した存在であり、しかし明確に断絶した別人であるといえるね。
10年前の僕と今の僕がそうだって分かるから、きっとキミにも意味が分かるよ。
キミは今、どこにいるだろうか。
なんて質問は、やはり愚問かな?
僕はずっとここにいる。だからきっと、キミもここにいるだろう。
この十年は、どうだった?
苦しかった? 悲しかった? 楽しかった? 良い事がたくさんあればいいな。
見える景色は、どうなっただろうか。より高みに到達して、うんと遠くまで見晴らせているだろうか。
いろんな人と出会い、別れ、生きているだろうか。
キミは今何を感じられるだろうか。
匂いは、景色は、音は、風は。
五感の全てを使って、キミの今を伝えてはくれないだろうか。
もちろん僕にそれが届くことなどないのだけれど、それでも言語にしておいてほしい。
いつか、過去になった僕がそれを拾いに行くよ。
僕はキミになる前に、死滅している。
だから、キミの姿を僕は見る事が出来ない。
僕はキミに覆われていく。
だから、二度と景色を眺める事は出来ない。
ごぅん、ごぅんと脈打つそれは、僕から徐々に遠ざかっていく。
気づかないほどの速度で。
それと同じ速さで、僕は死滅していく。
それが僕の役割なのだから、仕方のない事なのだけれど。
死滅しても役割がある、というのは幸せな事なのかもしれない。
僕はキミを支え続ける。
やがて死滅していくキミを、内側から支え続ける。
そうしたらきっと、一緒になって支え続けよう。
僕は薄く木を覆う樹皮。
やがて年輪として刻まれ、その場に留まり続ける。
キミもいつかは年輪。
何層も離れてはいるけれど、いつか、聞かせて。
キミの見てきた、外の世界を。
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