十年前の雨空

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十年前の雨空

 曇り空が広がっていた。  雨が土を打ち、黒く染めている。それを眺める僕と君。  なんて言えば少しは詩的だろうけれど、残念ながらこの状況は少しも詩的ではないし、そもそも眺めているのは僕だけだ。  公園の東屋――屋根の付いたベンチ。そこで、僕らは雨宿りをしていた。隣に居る君はいつの間にか眠っていて、僕だけが起きている。  十年前と、同じ構図だ。  同じ公園。あの時――偶然僕らが出会った時。瞬間、唐突に雨が降ってきたのだ。  二人揃って傘を忘れた僕らは、近くに見つけたこの東屋に避難した。それから、二人並んで雨を眺めて。  この雨宿りが、永遠に続けば良い、なんて――僕は思いながら。      あれから、長い年月が経った。  いや、経ったと思っているのは僕だけだろうし、実際には十年も経っていないだろう。十年、と言うのは僕が何度寝起きしたかの回数でしかない。  あの日、僕が十年前だと数えている日。  僕を除いて、世界は止まった。  雨は土を打つ瞬間で止まり、曇った空が晴れる事はない。  なんて言っても、信じられないと思う。だが、確かに止まったし、僕は既に十年間を止まった世界で過ごしている。幸運な事に、僕は自由に歩けたし、物にだって触れられたのだ。  止まった理由なんて、分からない。僕が願ったからかもしれないし、そうじゃないかもしれない。  兎も角、僕は長い十年を過ごした。勿論、ただただ惰性的に過ごした訳ではない。色々と調べながらだ。  結果を端的に伝えるのならば、この世界は、正確には止まっていなかった。  雨は少しずつ動いており、それは日々加速している。僕の計算が間違っていなければ、約十年後には、通常通りの時間に戻っているはずだ。  だが、僕は疲れてしまった。  だから、この手紙を記している。十年後の君に。  どう伝えればいいのか分からないけれど――一つ、言うとするならば。  君が居たから、この十年間過ごす事が出来た。君ではなかったら、十年間も過ごせなかった。  この手紙が、十年後に無事、届きますように。  ――ありがとう、さようなら。
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