2人が本棚に入れています
本棚に追加
「僕は10年後の君だ」
深夜1時。知らないアドレスからのメール。
どっからどう見ても迷惑メールだ。僕は大して気にも留めず、スマホの画面を閉じてまた便箋にペンを走らせた。すると、スマホはまた振動した。
「明日、カナコちゃんに告白するんだろ?」
画面を見て、思わず硬直する。まさか。誰にも言っていないはずなのに。
「ラブレター、じっくり悩め。……何年も残るモノだから」
卓上灯に照らされた便箋と、ゴミ箱に溢れた紙屑の山を見やった。嘘だ。コイツ、本物かよ。
「渡した瞬間は『今どきラブレター!?』って顔されるけど、大丈夫。気持ちは伝わる」
僕は画面に釘付けになっていた。心臓がうるさい。
「これから、色んな事がある。あんまりたくさん具体的に言うとつまらないから、一つだけ言う。来月、オカンが宝くじで1万円を当てるけど家族の誰にも言わずにへそくりにする。税金関連の封筒が入ったところに茶封筒があるから、こっそり持っていけ。それでカナコちゃんと美味しいご飯でも食べに行くといい」
オカン、へそくりとかするタイプなんだ。
というか10年後の僕が知ってるってことは、発覚して家族会議になったりしたのかもしれない。早急に回収しよう。
「最後にこれだけ。一つ、すごく理不尽で、悲しくて、辛い出来事が君に降りかかる。……僕は、まだ立ち直れないでいる。けれど君は、どうか前を向いて、踏み出してほしい。僕には守れなかった、約束を守ってほしい。……カナコも、きっとそれを望んでいる。」
メールは、来なくなった。
僕はラブレターに、最後の一行をつけ加えた。
「どんなことがあっても、僕はカナコちゃんが好きです」
最初のコメントを投稿しよう!