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悪魔の証明
「なんてことだ……!過去に残していた私の手紙に……!」
一人の男の手元には10年前に自分宛に書いた手紙があった。過去の彼が時間も場所も指定して、郵便配達を頼んだのだ。
しかし、その男は手紙を読みながら震えている。傍から見れば、何かに喜んでいるようだった。
その手紙にはこう書いてあった。
【私の開発した未来観測機〈千里眼〉では十年後以降、未来が観測できなくなっている。だから、私は人類史が十年後に消滅していると考えた。この予測が正しいと証明するためにこの手紙を送ることにした。これは届いているか?いないか?】
「こんなもの……!」
つまり、彼が開発した〈千里眼〉は不良品だということが分かったのだ。
男はその手で自身が発明した〈千里眼〉を破壊していく。
「こいつは不良品だったのだ!十年後以降もこうやって我らは存在できている!手紙を受け取れたのが何よりの証拠だ!」
自身の発明が失敗したことに怒りを感じ、金づちやらなんやらで〈千里眼〉を破壊する。
「私がこれまでしてきた消滅に対抗する研究はなんだったんだ!ここに無は生まれやしない!無など存在しないのだ!なんせ、証明ができないのだからな!今後、未来には有しか存在できない!なぜなら無の証明には有が必要なのだから!私がいる限り、無は存在しないのだ!未来が消滅するなど有り得ん!この研究資料はすべて燃やしてしまえ!」
男は怒り狂い、無について語りだす。自らが持つライターに火をつけ、そこらに散らばる資料を燃やし、辺りを炎上させた。
「……な⁉」
直後。壊れているはずの〈千里眼〉が爆音を鳴り響かせる。
『コ――、千―眼。応――ヨ。――者、応―セ―。―――未来――測――――ヨ―』
しかし、ほとんどが破壊されているため、音声にはノイズが混じり、聞き取りずらい。
男はそれを聞こうとしたが、すでに時は遅し。問答無用で炎に飲み込まれてしまった。
『コチラ、無限。応答セヨ。研究者、応答セヨ。無ガ証明サレタ。未来ハ無ナリ。有ノ存在証明用被験者ガ消エタ。未来ハ無ナリ』
すると別の機械が音声を再生する。その機械の名は無を証明する機械〈無限〉。男は自身を被験者として登録し、無様にも自信が存在しない世界を無だと決定づけたのだ。もちろん、彼は不死身などではない。今、焼け死んでいるのだから。
その後、研究所には消防が駆け付け、〈無限〉の音声を聞いてはて?と首をかしげたそうな。
無は証明されなかった。
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