十年後のキミへ

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 これは十年前のボクから、十年後のキミに送るメッセージだ。  突然のことだから、信じられないかもしれない。キミから見れば、これは過去から送られてきたメッセージなのだから。キミはボクが誰かだなんてわからないだろうし、これから知ることもないだろう。  だってこれは、ボクの自己満足だから。    ボクは十年前、キミに一目惚れをした一人だ。    今のキミは、十年後のキミにとって、十年前のキミは、あるアイドルグループの一員だった。センターを勤めているわけではない。雛壇に並べば、端の端。けれどもキミは、いつも綺麗な笑顔を浮かべていた。バライティでどんな役割を担っても、その笑顔が陰ることはなかった。そんなキミの笑顔に救われたのは、ボクだけではないだろう。だから、あの事件が起こった時、とても衝撃的だった。    十年前のあの日、キミはストーカーに襲われたんだ。    犯人は捕まったけど、恐怖で声が出なくなったキミは、もうアイドルを続けられなくなり、引退した。居ても立っても居られなくなったボクは、キミの事務所に出向いて、キミの為に何か出来ないか? と訴えた。事務所の受付で、その行動がストーカーと何が違うのか問われ、ボクは自分の行動を恥じた。  何もできなくなって立ち尽くしていたボクを見かねて、事務所の人が、十年後のキミへメッセージを送ることを提案してくれた。だから今ボクはこれを書いている。キミに届いてくれるのかわからないけど、でも、ボクはキミに伝えたい。  ボクは、キミの笑顔に救われました。嫌な日も、辛い日も、キミがあの日笑顔でいてくれたから、ボクは救われました。  今は、上手く笑えないかもしれない。でも、キミがいたから、笑えて生きていける人がいるってことを、キミがいたから今生きていける人がいるんだって、キミはそんな素敵な人なんだって、伝えたいんだ。  だから、今はゆっくり休んで欲しい。無理する必要は、今はない。  でも願わくば、またいつか、キミの笑顔が見れますように。     「どうしたの?」  そう言うと、妻は僕の方を振り向いて、笑顔を浮かべている。 「え、何?」 「何でもないわ。十年前のリクエストに応えただけよ」
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