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尻尾が生えない君へ
君が初めて家に来た時のことを覚えている。僕は、久し振りに帰ってきたママが大声で泣く君を連れて帰ってきたもので酷くびっくりしたのを覚えている。
今まで僕を可愛がっていたママが君につきっきりになってしまってやきもちを焼く日もあった。夜中急に君が泣きだして、ママが慌てて起き上がったせいで僕がベッドから転がり落ちそうになった日は恨んだよ。
でも、ママが幸せそうな顔をして君を見るから、僕も君のことを大事にしようと思ったんだ。最初はどうしたらいいかわからなかった。毛づくろいしてみたら泣かれてしまったし、尻尾であやそうとしたら尻尾を咥えられてしまってべとべとになってしまった。僕の自慢の尻尾なんだよ? 今でもわかってくれてないでしょう、しょっちゅう尻尾をおもちゃにするんだから。
僕が揺りかごを揺らしたら、ママも君も笑ってくれた。寒い日に君の隣で眠ったら、とてもあったかかったし、ママが僕と君を撫でてくれた。だから、これでいいんだなぁってわかったんだよ。
君はあっという間に、僕より大きく成長していった。僕は自分の大きな体が自慢だったんだよ。ママと暮らし始める前はね――この話はいいや。
僕はね、君が四つ足で歩くようになった時すごくうれしかったんだよ。これで一緒に家の中を探検できると思ってね。僕は君にいろんなことを教えようと張り切ったものさ。水の飲み方、ご飯の食べ方、食べちゃいけないもの、虫の捕まえ方。君ったら、水もご飯もこぼすものだから、ママが大慌てだったね。あれ以来僕の水とご飯は高い台の上に置かれるようになったんだ。君と一緒に食べるのが夢だったのにな。マグロの缶詰を君のところに持って行ったらママに取り上げられてしまった。でも内緒でカリカリは分けっこしたね。最近は食べてくれなくなったけどさ。でも、焼き魚は僕も君も大好きなままだよね?
僕はだんだん歳を取って、君はぐんぐん大きくなった。いつの間にやら、僕は君に抱っこされるようになった。君は2本足で走り回るようになったけど、まだまだ僕より遅いね。最近僕は走れてないけど、まだまだ君には負けないつもりさ。
君はきっと、これからもどんどん大きくなるんだろう。ママより大きくなって、空に届く日がきたりして。あと10年くらいかな?
僕はこれから、ママが言うには、空の向こうに行くみたいだから。君が大きくなって、空の上に顔を出したら、一緒にまたかけっこしようね。
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