自演

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自演

 高校生になったばかりの自己紹介、周りのクラスメイトが、流行りの音楽だとか、スポーツをやっているだとか、そんなキラキラとしたオーラの中、私は陰鬱とした声で 「好きなものは読書です」  と言ったはいいものの、誰も何も興味を示さないものだから、なぜかテンパってしまって、聞かれてもないのに、作家の名前やあらすじなんかを口走ってしまっていた。  その癖、国語の授業で「この作者の代表作はなんですか?」と先生から聞かれても、ちっとも答えれないぐらいのミーハーさで、だけど授業中はずっと、新品の電子辞書に入っていた、世界文学全集の冒頭ばかり読んでいた。  その2万9800円のブックスタンドがガラクタになってしまったのは、夏になって6万8000円もする、24分割払いの新世代の携帯とやらが発売されたことであった。  クラスメイトたちは、もっぱら5×6の盤面とにらめっこしながら指先で玉を転がしていたけれど、私はまるで私のために作られたかのような、小さな図書館に入り浸っていた。  投稿ボタンを押す瞬間、私はとてもドキドキしていた。だって期待していたんだから。今度の全校集会で、表彰状でも受け取ってしまう妄想までしていた。それがどうだ、蓋を開けてみれば、私の作品なんてこれっぽちも読まれない。  それからの私は、魔法の鏡に映る王子様を眺める乙女のように、ため息を続く毎日が続いていた。そしたらなんと、通知が来た!すぐにアプリを開いて確認する。 『笑っちゃいました』  そのメッセージは、全くもって褒められているのか貶されているのかも分からなかった。だけど私は泣きだしそうで、思わず奇妙な唸り声を上げてしまったわけだから、クラス中から初日以来の冷ややかな視線を浴びることになる。  そんなことを今になって思い出して、10周年記念と書かれたアプリをダウンロードしなおすと、どうしようもない駄作を見つけてしまう。作者の好きな物だけを切り貼りしたような話は、目を覆いたくなる内容だったが、その若々しい過ちに、口元が緩む。  ただ最下部までスワイプしてみても、そこにあったはずのコメントはなくなっていた。おそらく何十回にもわたるサーバー更新だとか、アップデートの内に、いつの間にか消えてしまっていたのだろう。私は少し気持ちが前のめりになっていて、溢れる思い出をメッセージにした。 「笑っちゃいました」  この話はこれでおしまい。ジ・エンドでもあり、コンテニューでもある。
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