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 君の手をとる。  ……あったかくて、柔らかい。  ほっぺたを朱くした君は、僕を見上げ、微笑むのだ。  ああ、よかった。  君が、こんなふうに笑ってくれるなんて。  僕のそばに、いてくれるなんて。  十年前の君は、ひとりでずっと泣いていたね。  「消えてしまいたい」って、膝を抱え、閉じこもってた。  きっと、君は優しいから。  誰も傷つけたくなかったのかなって。  ひとりぼっちで苦しんでたんじゃないかなって、……ずっと、思ってたよ。  ……ねえ、僕は君の、“温もり”になれたかな?  安心して、笑える場所になれたかな?  そしたら……そしたらね。  僕の存在は、決してムダじゃなかった。  なんの取り柄もないけれど。  十年前の君に、何にもしてあげられなかったけど……。  これからは僕が、君を守るから。  今日も君と、手をつなぐ。  あったかくて、柔らかい。  僕は微笑みながら、君へ、たったひとつの言葉を口にする。 「     」
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