10年前の君へ

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 それは突然現れた。    空中――そう、空中としか言いようのないほど、中途半端な高さの空間に、ぽっかりと丸い穴が開いた。  僕はそれをぽかんとした顔で眺める。  と、その穴からバチバチと稲光が発せられ、次の瞬間30代くらいの見覚えのある男性が苦し気な顔を出した。  人間本当に驚くと声も出ないようで、僕はただただ目をぱちくりすることしか出来なかった。  「キミ!」  その男性が声を発した。周りを見渡すが自分しかいない。どうやら僕に言っているようだと気付く。  「そう!キミだ!時間がない!今から言うことを良く聞いてくれ!」  僕はこっくりと頷いた。  「まず、信じられないと思うが私は十年後のキミだ!私は、いや、キミは十年後に大変な状況に陥る!私はそれを回避すべくキミに助言をしに来た!」  空中の穴がバチバチと、更に強い稲光を発した。  「ぐああ!も、もう時間が無い!これだけは聞いてくれ!」  穴が徐々に小さくなっていく。  「自分の『じょれむろん』を絶対に『ゆーじぇん』させるな!そして、『ぱーなむ』はいつでも『きっさく』しておくんだ!――絶対だぞっ!」  そこまで言い終わるや否や凄まじい閃光が生じ、僕は目をつむる。ゆっくりと目を開けると穴は無くなっており、ただ自分だけが人通りのない静かな道に佇んでいた。    じょれむ……なんとかを、ゆーじぇん?で、ええと、ぱーなむを……。  結局今の僕には何一つわからなかった。  僕はポケットからスマホを取り出す。誰かに聞いてみようかとLINEをするつもりがTikTokを起動してしまい、はたと気付いた。  ああ、そうか。  10年前の自分に「TikTokじゃなくてLINEしろ」って言ってもなんのこっちゃわからないかもな。    十年一昔、か。  そんな言葉を呟きながら、僕は何やら大変なことになるらしい十年後の自分を憂い、溜息を漏らす。    
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