この夏に道が変わる

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「これを描いてる時の蒼太の顔、凄い好きだったわ。きゅっと口角を上げて、無邪気に目を輝かせてて……。そんな姿をいつも羨ましく思ったりした」  端の折れた部分をそっと直し、まるで我が子を見つめるかのように優しく目を細める叔母さん。 「それに、これを見てるといつも初心に返ったような気になるの。あぁ、私も、今をもっと純粋に楽しもうって。色々悩んでた自分が小さく思えちゃった」  窓から入ってきた夕日の光が、机の上の原稿用紙を明るく照らした。トーンが剥がれそうになってたり、ホワイトで何度も書き直した跡のある原稿用紙。漫画描くのが楽しくてたまらない、って思いが伝わってくる。  あぁ、やっと分かった。夏が嫌いになった理由。  勉強ばかりして、描かなくなったからだ。  毎年、長期休暇の時はここぞとばかりにせっせと描いて、自分だけの世界を形にしていっていた。何でも思い通りに出来て、嫌なことがあっても全てハッピーな結末に繋がっていて。それは随分とつまらないご都合主義だったのかもしれないけれど。  それでも――。
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