神の使い

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 小百合の家がある住宅街の真ん中に小さい公園がある。ブランコとタコ型の滑り台と馬の形をしたバネがついた乗り物があるだけの小さな公園だ。小百合は40歳、遊ぶような年齢ではないし、子供も中学生なので公園で遊ぶというよりゲーセンなんかのほうが好きらしいが、小百合は毎朝、ここに来ることを日課にしている。公園の隅に咲く花も好きだし、コンビニでサンドウィッチなんかを買ってベンチで食べるのもいい。  今日は梅雨の中休みのようで久しぶりに空が晴れている。小百合は夫の浩二を送り出すと洗濯物を干したり掃除をして家事を済ませた。今日も公園に行きたいが少し眩暈がする。やめておこうかとも思ったのだが、窓の外があまりに晴れている様子なので意を決して外に出た。  具合が悪いのに外に出たから、太陽の明るさで余計に眩暈が増す。でも、公園は目の前だ。小百合は木陰になるベンチに腰掛けた。 「キャン、キャン」  何処から聞こえるんだろうと辺りを見渡したら何のことはない。足元で子犬が鳴いていた。  「あ、ワンちゃん、プードルじゃない」 「キャン、キャン」  小百合は飼い主がいるのだと思って、もう一度辺りを見渡したが誰もいないし人のいる気配もしない。それに犬はだいぶ汚れている。連日の雨のせいだろう。それにその汚れた首には首輪も付けていない。 「捨て犬なの?」 「キャン、キャン」  小百合は犬が居たらしき茂みを見た。段ボールの箱があって手紙のようなものがビニール袋に入っている。 「この犬を飼ってあげてください。事情があって引っ越すことになりました」  参ったなと思った。犬は好きだし家にペットを飼っていないがこの犬は子犬だ。10年以上は生きるだろう。小百合は乳がん、余命宣告は夫が訊いているが、長くないのは自分でも分かる。 「この犬には不思議な力があります。この犬のお母さんは普通の犬より胸が一つ多い犬でした。神社で見て貰ったら、神の使いだと言われたんです」  胸の一つ多い犬?小百合は左胸を摘出して胸が人より一つ少ない。偶然だろうか。小百合は首を捻る。 「10年前はこの犬を見て見ぬふりをして帰ろうとしたけど、今では飼って良かったって思ってる」  小百合はプードルを抱きしめて言った。夫が「お前は余命一年だったんだ。この犬は本当に神の使いだよ。10年も生きたんだ」とほほ笑んだ。 「あ、私はあと30年は生きるから」  二人は顔を見合わせて笑った。  
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