10年後のキミヘ

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『十年後の俺へ。28歳の俺へ。夢とか、なりたい職業とか、そういうのはおいておいて、一番聞きたいのは川崎さんのこと。お前なら十年前のことだろうとまだ好きでいるんだろ?この時期になっても、この気持ちを伝えられなかった俺のことだから、十年後も今と状況が変わってないだろうな。でも、やっぱりあきらめきれない。十年後、この気持ちが川崎さんに伝わっていることを願う。……で、あわよくばその気持ちが報われていることを願う。                 3B 貝塚順平』            * 「この教室、懐かしいな。十年前、俺たちはここで思い出作ってたのか」 と懐かしい思い出に浸るのは高校時代の友達だ。懐かしいメンバーが集まったものだ。 今日、卒業から十年たった今日、俺たちは教室で同窓会をしていた。 しかし、俺は思い出に浸っている余裕などなかった。せっかくだからということで、俺たちは出席番号順に座ることになった。つまり、後ろに座るのは川崎さんとなった。あの川崎さんである。前を向いてはいたが、後ろに全神経が回っていた。心臓の心拍数は久しぶりに上昇していた。 はあ、と一つため息をついた。 (これじゃ俺、十年前とやってること変わんないじゃん。確かにお前のいう通り、俺は変わってなかったよ) 手元の手紙に言う。まだ手紙は開封していないが、何を書いたかははっきり覚えている。我ながら大胆なことを書いたものである。 「手紙、全員に回ったな。じゃあ、手紙を開けてくれ」 黒かった髪に白髪がまじり始めた元担任の白井先生が言う。まあ、読まなくても内容は覚えてるけどな、と心の中でつぶやきながら、俺は手紙を開封した。 『十年後の私へ。保育士になるという夢を叶えていますか?きっと叶っていると信じています。そして、多分まだ結婚はしていないですよね。恋愛とかに奥手な私だから。三年間抱き続けた貝塚くんへの想いも伝えられなかった私だから。でも、幸せになっていてください。                 3B 川崎陽菜』 「ど、どういうことだ?」 「こっちで、手紙を渡し間違えてた。川崎のと貝塚のを逆にしてたみたいだ。ごめんな」 手紙を配った白井先生が申し訳なさそうに言った。 思わず後ろを振り返ると、顔を真っ赤にした川崎さんと目が合った。 多分、俺の顔も真っ赤になっていた。  
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