コロナ禍のキミへ

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 COVID〜一九というのが僕の型番。末尾の数字は人間たちが僕を認識した二〇一九年を表している。当時は新型コロナウイルスと呼ばれてた。二〇二〇年ら二〇二一年にかけて僕のせいで百万人の人間が死んだ。僕が殺したことになってるけど、人間だって生きるために牛を殺して食べているんだから、これは必要悪として勘弁してほしい。自分の遺伝子を残そうとするのはどんな生命体にとっても共通の本能だものね。  僕がこれを書いているのは二〇三〇年だ。これを読んでいるのは二〇二〇年のキミ。タイムマシンは二〇三〇年にもまだ実用化されていないけど、時間を越えて文章を送るタイムメールは完成している。宛先を決めずに送るボトルメールと組み合わせることで、この文章はキミへ届いたというわけだ。  ウイルスが文章を作成できるのか? それは二〇二〇年のキミなら当然の疑問だね。僕らの時代にはコンピュータが脳波を読みとって文章を作成している。キーボードをカチャカチャなんて時代劇でしか見られないよ。音声入力もいいところまでいったけど脳波入力が追い越しちゃった。  初期の脳波入力にはヘッドギアが必要だったけど、やがて離れた場所から脳波変化を読み取る遠隔脳波センサーが発明された。それによって、人間やイルカなど高度な知性を持った生物だけでなく、本当に微弱な脳波しか発しない僕らウイルスでも、文章が作れるようになったのさ。  メールの進化の話はこのくらいにして話を本題に戻そう。キミにとっては未来の話だ。  二〇二一年の中ごろワクチンが発明されちゃったから、それ以降、僕が大流行することはなくなった。普通のインフルエンザと同じくらいの脅威になったわけだ。それでも、毎年数千人が死んだ。そりゃそうだよね、でなければ僕が消滅してしまう。人間のみなさんごめんなさい。だけど、分かってね。  二〇二〇年に予定されていた東京オリンピックは翌年に縮小開催された。僕が注目していた男子サッカーの日本チームはタケ・クボ選手の大活で・・・・おっと、この先はネタバレになるから自粛しよう。タケ・クボ選手がその後、超名門クラブで背番号一〇を付けるってことだけ言っとく。  キミがこれを読んでいるころは、コロナ収束後の新しい生活様式についての話で盛り上がっているだろうね。結論から言おう。アフターコロナで変わったのは日本からハンコがなくなったってことだけさ。
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