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やっぱり自分の生んだキャラというのはかわいいものです。
私は初めて買ったスマホを手に格闘していた。スマホの使い方、とパソコンで検索するという本末転倒な行動を取るくらいだ。
「そんなもの検索してる場合か!私のことはどうなるんだ!」
と、私に叱咤の声を浴びせたのは、近藤さくら、二十歳。私が趣味で書いている新選組もの小説の主人公だ。新選組といえば、幕末の短い歴史の中で京都を舞台に活躍した剣客集団。ドラマチックな逸話が多々あり星の数ほど関連作品がある。
「忘れたわけじゃないよ?でも誰にも読まれないからやる気がなくなっちゃって」
「マイナーな個人サイトだからなあ」
「ちょっと、幕末の人って設定なんだから、マイナーとか言わないでよ」
そう、私は自分で立ち上げたホームページに小説を公開していたが、閑古鳥の泣く日々が続いていた。おかげですっかり執筆意欲を失っていたのである。
「そんなことより、続きはどうするのだ?黒船なんていうのが来て物騒なことになっているが、こんな中途半端なまま江戸でくすぶっていろというのか?やはり生まれたところから書くのでなく、いきなりばばーんとチャンバラが始まったりした方がよかったのでは」
「大河ドラマだって朝ドラだって最初は子役時代から始まるでしょ。これはさくらの人生の物語でもあるから、必要なことなの」
きっぱりと言う私に驚いたのか、さくらはわかったよ、と口をつぐんだ。
「絶対書くから。ね?明日書くか、来年書くかはわからないけど」
そうして、十年が経ってしまった。だが、今は状況ががらりと変わっている。
「ねえ見て!スターがたくさん!」
「ふうん、お前にしては上出来じゃないか。だが私の活躍ぶりからしてもう少しいけると思うのだが……」
「まあまあ、そう言わずにほら」
ちょっとだけ先の展開を見せてあげるよ、と私はさくらにパソコンの画面を見せた。
「へえ、これはなかなか壮絶な……。やっとここまで来たかぁ。それにしても、あの頃もお前と私は同じ年頃だったが、まさかまた同じ年頃になるとはな」
「十年前の私たちに教えてあげたいね」
「エブリスタの皆さんに感謝することだな。お前も私も。私が京都に来て、いろいろな事件を乗り越えられたのも読者の人たちのおかげなのだから」
そうだね、と私が微笑むとさくらは満足そうな顔をして姿を消した。
今度は、止めないであなたの生き様を描いていくからね……!
私は公開ボタンを押した。
さあ、次は彼女にどんな見せ場を作ろうか。
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