Ten years

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 太陽が顔を覗かせ始める刹那、真っ白で静謐な時間。頼子の住む高層マンションから、地平線が七色に輝くグラデーションの朝焼けが見え始めた。  時折、新聞配達のバイクの音や、朝帰りだろうか、ハイテンションの若者達が大きな声で会話をしながら通り過ぎて行った。そしてまた静けさが戻った。  ふと、道の先に目を凝らすと、過去の自分が大きく手を振っているのが見えた。 「あれは、十年前の自分?」  あなたはこの十年をどう考えているのかしら。喜んだの、怒ったの、愛したの、楽しんだの……? 「私はそうね……」  今まで歩んできた道を振り返ったが、ずいぶん遠くまで歩いてきた事に気づかされた。ここまで来ると、もう、通り過ぎた過去の形がうすボヤけて見えなくなっている。  頼子は思う。 それなら、これから先の十年は、どう生きて行く事が正解なのかしらと……  若さには、未来への明るさがあった。夢を、希望を、願いを、熱い思いがあった。  目には見えないけれど存在する時間と云うものに、それらを託す事が許されているように感じた。  ここから先の事は、まるでわからない。命の期限は誰の目にも見えないが、確実に存在する。生老病死と言うものは避けられず、記憶もいずれ全てが忘却の彼方へ飛んで行くかもしれない。  でもと、頼子は思う。 ここから先に進む道は、まだ作られてはいない。自分が進んだ先に道ができるからだ。だから、どんな事が起こるとしても、明るい明日へ向かって懐メロでも口ずさみながら、悠々と乗り越えて行こうと思う。  いつの間にか、すっかり明けきった空。ぽっかりと浮かぶ雲。太陽が美しく輝き始めている。車や通行人が増えてきた。今日も一日暑くなりそうだ。  眼下を見ると、過去の自分が背中を向けている。この先の未来を目指してゆっくりと歩き始めているようだった。  時に立ち止まり、景色を眺め写真を撮りながら、心の安寧が友の幸せにも繋がるように、大切に過ごしていこう。 頼子は、その背中に 「頑張れ私!!」 と、エールを送りそして微笑んだ。 END
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