十年前のきみへ

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 十年前に四つだった子は、十四歳になった。  反抗期真っ盛りという感じだ。  今日もつべこべと、甘ったれが文句を垂れてくる。  十年前に鬼籍に入った妻、まりえの仏壇に手を合わせながら、匡久(たすく)は心の中で、息子とのやり取りを妻に話して聞かせる。  そうしていると、彼は心が落ち着くのだ。  変な表現だが、それが一種、一日の楽しみといってもいいかもしれない。  そうやって長いこと仏壇の前にいると、息子はそれも気に食わないらしく、父親をばかにしてくる。 「また、そうやってお仏壇の前で、僕の悪口をお母さんに告げ口してるんでしょう」 「悪口なんか言ってないよ。(たくみ)も大きくなったなあって報告してるだけだ」  巧は反抗期になってから、なぜか家の中で敬語を使うようになった。  親と距離を取り始める、無意識のあらわれなのだろうか。
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