114人が本棚に入れています
本棚に追加
今私の目の前にあるのは、六月の青空に映える美しい白壁のチャペル。参列者は拍手をしながら次々に祝福の言葉を口にしていた。
涙がこみあげてきそうになって、必死に我慢する。泣いたらせっかく綺麗に仕上げたメイクが崩れてしまう。
私はそっと目元をぬぐいながら、あなたと出会った十年前はこんな日を迎えるなんて想像もしなかったなと小さく微笑んだ。
あなたに出会ったのは、十年前の入社式。
最初はよく目が合うなと思うくらいで、まったく意識していなかった。
入社して一年たったころ、偶然目が合うんじゃなく、自分が目で追っているんだと気づいた。
社内であなたの姿を見かけるだけで気分が上がって。仕事で一緒になると嬉しくて。でもふたりきりになると途端に緊張した。
それを好意だと素直に認めるには、あの頃の私には可愛げがなさすぎたよね。
あなたの隣にいたくてわざと女らしい自分を隠した。ヒールよりもスニーカーを選んで、ワンピースじゃなくデニムを履いた。
興味のなかったサッカーだって、一緒に盛り上がるためだけに海外チームの名前を覚えたんだよ。
全部全部、誰よりもあなたのそばにいるための努力だった。
一番の友人になった私たちを見て、同僚たちは「付き合っちゃえばいいのに」と笑った。
そのからかいの言葉に「絶対いや」と強い口調で否定したのは、ただただ恥ずかしかったから。あのときあなたの表情が曇ったことに気が付いていたら、今とは違う未来が待っていたのかな。
そんなことを思いながら、幸せそうな新郎新婦をみつめる。
数年前の自分がもう少し素直になれていたら、あの場所にいるのは私だったのかな。
そうしたら、あんな男に媚びることしかできないバカな後輩にとられることなんてなかったのかな。
私はにこやかな笑みの下で、こみあげてくる嫉妬と後悔に奥歯をくいしばる。
十年前の自分にひとこと伝えられるなら、あなたは私みたいにならないで。
私はフラワーシャワーの下で微笑むふたりを眺めながら、バッグの中に隠したナイフをぎゅっと握りしめた。
最初のコメントを投稿しよう!