過去と未来と

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 二十歳。成人式。  同じ学年、同じ中学を出た人が横に縦に並んでいるわけだけど、  あまり楽しくはない。  それは来賓の挨拶が長いから、ではなく雰囲気だった。  一人、スーツで参加した私は気分的にも溶け込んていない。  着飾れないわけじゃなくて、そうする気になれなかっただけ  ではあるけど。  片耳で話を聞きながら、十年前のことを思い出す。 「二分の一成人式」ということで「十年後の君へ」というテーマで作文を書いた。  夢が叶っているか聞いていたり、想像がつかないけど元気ですか? って聞いていたりそんな感じだった。  私は夢について書いた。  まだイラストを描いているか、という質問。  その答えはNOだ。  ただただ現実を生きている。  高校卒業を気にやめて、いまはデザイン事務所で事務員をしている。  才能がない。それで生きるのは難しいと分かってもうあきらめた。完全に。    自分が望んだこと。  だけど、  いま、この瞬間  この節目に  やっぱり、と思い始めた。  諦めるのは人生が終わるときで良いんじゃないだろうか。  なんてことを思う。  特別な日だから、大胆になっているのかもしれない。  単純だ。  そんなところは変わっていない。  変わったのは現実的な頭になったところ。  だったけど、さっきそれも崩れた。  結局、人間というのは変わらないものなのかもしれない。  十年前の自分に何か言うなら、おかげで描く気を取り戻せたっていうお礼。  下手でも何でも描き続けたい。  早速明日からまたパソコンを開こう。  そう決めたところで、ちょうど壇上での話が終わった。  後半、全く聞いていなかったけどまあ良いだろう。  隣にいる井田さんは何となく眠そうな顔をしていたけど。私はその逆。  でも、早く帰りたいという気持ちは同じだ。  馴染めないまま終わるとしても。  一つ同じものがあるならっていうことで、後はどうでも良くなってきた。  背筋を伸ばす。  そして改めて顔を上げた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!