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出会い
「大塚未藍さんですか?」
2日後、見知らぬメガネの男子生徒が、休み時間に未藍に声をかけてきた。
身体は細身で小柄なのに“話を最後まで聞かなくては”という気にさせた。高校生にしては妙に態度が落ちついている。
「ぼくは、坂下高校オカルト研究部の部長、稗田綴と申します。坂下町の怪現象とバグの噂について、ちょっとお話をうかがいたいのですが、大塚さんもこの話はご存知ですよね?」
「あー、はい。」
「よろしかったら今日の放課後、少しお時間をいただけませんでしょうか?」
「別にいいですけど。時間あるし。」
「では放課後、2号棟の資料室でお待ちしています。」
初めて会った人なのに未藍は素直に了承してしまっていた。
スマホがちゃんと動いていたら、誰かにオカルト研究部のことを聞いてみたり、一緒に資料室に行ってもらったり、慎重に行動したかもしれない。同じクラスにまだ仲良しと呼べる友達はいなかったし、虫喰い現象によって周囲との会話も減って相談する機会をなくしていた。
(行くって言っちゃたけど、オカルトってやっぱり怖そうなんだけど……そもそも何を話すの?)
2号棟は少し古めの校舎で、実験室や工具室、美術室などがある。2階は部活動の生徒も通らない。湿り気のある床をニチャッニチャッと歩く靴音だけがよく聞こえ、未藍はだんだん不安になってきた。
2号棟2階の一番奥にある資料室は、生徒には用のない場所だった。
ーーコン、コン。
「すみませーん!大塚ですけどぉ」
遠慮がちなノックと小声で部屋の中に声をかけてみた。
ーー無反応。
(誰もいない?だまされた!?やっぱり帰ろっ!誰もいなかったので帰りましたと言えばいいよね。)
すぐにでも帰ろうと振り返ると、昼間の部長が静かに立っていた。未藍は思わず声をあげそうになったが、隙を見せないように平静を装った。
「すみません、途中で顧問の先生につかまってしまい、遅くなってしまいました。どうぞ中へ。」部長は未藍を資料室にうながした。
(この人、おとなしそうだけど急に襲ってきたりしないよね?)
恐る恐る頭だけを資料室に入れ、中をのぞくと他にも生徒が2人座っていた。
(え? 資料室にずっといたんなら返事くらいしてくれればいいのに。)
「みなさん、この方が例の大塚さんです。」
「こちらのお2人は、坂下高校オカルト研究部1年の高井さんと瓜田くんです。お2人とも大塚さんとは同学年ですから、お顔くらいは知っているかもしれませんね。」
「ーーっス」
頭を少し動かし、男子生徒の息だけの挨拶が聞こえた。
「ども」
未藍の返事もそっけない。お互いに仲良くするつもりはないという空気だ。
「実は、オカルト研究部では今回の坂下町の怪現象について調査をしていまして、いつから虫喰い現象が起きたのか調べてまわったのですがーーどうやら一番最初に虫喰い現象が起こったのが大塚さんのスマホのようなんです。」
「えっ?そうなんですか?」
「SNSで呟かれだしたのが火曜日の11時頃からです。前日の月曜日に虫喰い現象が起きたという人は一人もいません。」
「……私が原因とか言わないよね?」
「それはまだ分かりません。それで大塚さんに詳しくお話をお聞きしたかったのです。」
未藍は不安になったが、この不可解な現象に興味を持ち始めていた。
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