35人が本棚に入れています
本棚に追加
手がかり その1
「もう皆さん、私の母が4年前に隠里で行方不明になったことは知ってるみたいですね。」
当時の記憶をたどっているのか、どこでもないどこかを見ながら未藍は話し始めた。
「行方不明になってから周辺一帯を警察が調べてくれたけど手がかりは何も出てきませんでした。怪しいのは古民家を探していた男だったんだけど、男が到着する前にお母さんはもういなくなっていた。隠里に先に着いていたお母さんが古民家から800mも離れた沢へ、1人で降りていくのを見たと集落の人が何人も証言しました。水量の少ない沢には流された形跡もなくて、結局お母さんは自分からどこかへ行ったのかもしれないってことになって……行方不明のままだけど事件としての捜査は打ち切られてしまったんです。」
少し沈黙したのち、ひとつ息を吐き出し未藍は話を続けた。
「叔母さんと叔父さんと一度だけ隠里に行ったことがあって、お母さんが最後に目撃された沢に降りて行ってみました。警察がたくさんの人数で探した後だったけど3人でまた探して。
沢を越えた向こうは木ばかりで奥には高い山しかなかった。しばらくしてから空気を切るような音がビュンビュン聴こえてきて、目の前の木が風で大きくザワザワ波立って、音のするほうを見たらありえないくらい大きい羽のついた生き物が飛んでた。普通じゃない大きさの人間に羽が生えてた。
叔母さんと叔父さんはその時何も見えてなかったみたいで、私が急に悲鳴をあげたので2人はビックリしてその日はもう探すのはやめたの。
それ以来ーー隠里には行ってないし叔母さんたちもお母さんの話をあまりしなくなった。
私が見た羽のついた大きな人間は何だったのか、当時混乱してたから幻覚を見たんじゃないか? 気のせいだったんじゃないか? 何度も自分を疑ってお母さんの噂もいろいろあったから誰にも言えなかった。でも確かに私は見た。
だからもしかして、お母さんはあの場所から私たちとは別の世界に行ったんじゃないか? そこでちゃんと今も生きているんじゃないか? 幻覚かもしれないけど有り得ないことだけど、お母さんは生きているって希望は持ってしまって……。」
未藍は冷静に話そうと努力していたが、何年も奥にしまい込んだ記憶と感情は涙と一緒にしか取り出せなかった。
「ごめんなさい、辛い記憶を思い出させてしまって。」部長が小さく頭を下げて謝った。
侑香は、戸惑いながらも真剣な表情で考えている。
「部長さん、話の続きをお願いします! 私を襲った男と隠里とお母さんに、どんな関係があるのか知りたいんです!!」
未藍は、自分に起こった不可解な出来事と運命をしっかり受けとめようと思っていた。
最初のコメントを投稿しよう!