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手がかり その2
部長の稗田はオカルト研究部がこの件に関わってよいのか考えていた。傷ついている人に希望を持たせることにも奪うことにも責任がある。部員も危ない目にあわせてしまった。
ーーしかし、もう話を始めてしまった。
稗田にも稗田の使命感があった。
(続けなければならない。この話が決着するまで。)
いつもの感情をおさえた丁寧な口調で話を続けた。
「実は昨日、以前お世話になった警部さんに相談し、大塚さんを付け回した男を調べてくれるようにお願いしてきました。現実に誘拐されそうになったわけですから。車のナンバーや男の特徴は瓜田くんが詳しく話してくれました。」
「その人は、4年前に古民家を探していた人なんですか?」
そうであれば、虫喰い現象と4年前の行方不明事件が関連している可能性が高くなる。
「まだ断定はできません。2年生の鈴木くんが民宿へ電話をして確認してくれました。聞いた内容を話してくれますか?」
鈴木くんと紹介された人が部長に代わって話し始めた。
「その男は隠里に1泊し、朝食をとるため食堂に降りていき『電波が悪いと、メールってこんな風になるの?』とオーナーにスマホの画面を見せたそうです。オーナーも初めてみる画面だったので『今までこんなの見たことないですよ、虫が文字を食べちゃったみたいですね』と答えたそうです。珍しい現象だったのでオーナーは民宿のSNSに虫喰い現象のことだけを書き込みました。それが大塚さんのスマホに虫喰いが起きた日の朝です。男の名前は教えてもらえませんでしたが、オカルト研究部だと名乗ったのでオーナーは面白がって別の情報も教えてくれました。
民宿のオーナーによると、その男は朝食のあと少ししてから『幽霊から手紙が来た!』と青ざめてバタバタと支度をして早めにチェックアウトをして帰ったそうなんです。詳しくは話さず帰ってしまったそうなので、どのような手紙の内容だったかは分かりません。」
ーー幽霊。その言葉に未藍は最悪の想像をし、まだ決まったわけじゃない!と急いで気持ちを切り替えた。
鈴木くんから話を引き継ぎ部長が話しを続けた。
「ただの推測と想像でしかありませんが、とても嫌な予感がしました。以前にも予感が当たって、警部さんを頼ったおかげで被害を未然に防ぐことができました。
今回はあまりに漠然としていて大塚さんに知らせようにも警察に相談しようにも“嫌な予感がします”では信じてもらえませんし、かといって何か起きてから遅すぎます。そこで自主的に大塚さんの尾行を始めたわけです。ストーカーまがいのことをしてしまいましたが、誘拐を未然に防げてよかったです。ーー僕たちに分かっていることは以上です。」
「話してくれてありがとうございます。皆さんのおかげで誘拐されずに済みました。瓜田くんも怖かったと思うし相手が凶器を持っていたかもしれないので。助けてくれてありがとう。」
期待していたほど核心にせまる情報は得られなかったが未藍は部長や部員の皆んなに感謝を示した。
しかし、侑香の反応は違っていた。
「未藍!まだ、何が本当かは分かんないよ!誘拐犯もこの人たちも全員グルで、オレオレ詐欺を仕掛けているのかもしれないんだからね!!」
部員の何人かはムッとした表情をしたが、未藍は思わず笑ってしまった。
「ユウらしい、ありがとう。」
「その警部さんは何という名前でしょうか?私からも電話をしてみます。」
「それには及びませんよ。」
野太い声が聞こえ、観葉植物の影から店内にいた会社をサボっている風のサラリーマンが声をかけてきた。
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