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影の襲撃
午後3時頃のファミレスはお茶を楽しむ人でゆったりとしている。午後6時以降になると急に家族連れや若者で賑やかになった。ディナーメニューに替わり、オーダーの違いに戸惑いながらも1日目は終了した。
(あー疲れた!早く帰らなきゃー!叔母さんに心配かけちゃう。)
バタバタと帰り支度をして、20時17分の電車に遅れないように早歩きで駅に向かった。
ーーその後ろを40代くらいの男が1人、未藍から少し離れて追いかけていた。
反対側の歩道にももう1人、未藍と並ぶように追いかけている。
2つ目の駅で電車を降りると2人の男も降り、それぞれが別々に未藍の後ろを歩いていた。駅から200mまではお店の照明で明るいが、住宅街に入ってしまえば街灯の明かりもまばらだ。
「すみません」
住宅街に入る手前で男に声をかけられた。
「田川物販の事務所はこっちの道でしょうか?近くの家に8時30分に行く予定だったんだけど遅れそうでね。暗いし道がよく分からなくて。」
「そこの脇道を入って右に曲がるとすぐ看板が見えてきますよ。」
未藍はアルバイトでお客さんに答えるように愛想よく教えた。自分の帰宅ルートも同じだったが、一緒に行って案内するまでもないだろう。
「ありがとう」と言って男が先に行ったのを確かめてから、少し時間を置いて未藍も同じ角を曲がった。
角を曲がったと同時ーー暗がりから真っ黒な影が急に現れ、口をふさがれた。田川物販の前に止められた車に、今にも連れ込まれそうになるのを、車体につかまり必死で抵抗した。声を出そうにも大きな手で塞がれていて口が開かない。心臓がバクバクと鳴り恐怖を感じたが頭は冷静だった。
(この人さっき道をたずねた男だ!)
抵抗しつつなんとか隙を見つけ、いざとなったら股間を思い切り蹴って逃げようとチャンスをうかがった。
「何やってんだ!!」
大きな声と走りよる足音が聞こえ、未藍と襲ってきた男と更に加わった男がもみくちゃになった。暗いので誰が誰か分からない。放り出された未藍をよそに男2人がつかみあい押し合いをしている。
急な邪魔が入り、あきらめたのか暴漢男は車に素早く乗り込むと、急発進し壁にぶつかりそうになりながら車で走り去った。
「大丈夫?」
後から加わった男も暗がりで影しか見えない。
「ヒィっ」
助けてくれた人だけど、この人も知らない人なのだ。未藍は四つん這いのまま、とにかく距離をとった。
「待ってください!オカルト研究部の瓜田です!!」
街灯の下までやって来た影は、確かに瓜田だった。
わけがわからないが、瓜田のことも名前しか知らないので安心はできない。
「……助けてくれてありがとう。……でもあなたも怖いんですけど。」震えの混じる声で答えた。
「そうですよね。僕が少し前を歩きます。家まで送っていくんで、恐ければ少し離れて付いて来てください。」
この間、資料室にいた寡黙な瓜田とは違い、ちゃんと言葉を発してしていた。
(私の家なんで知ってんの? 何なのコレ?)
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