瓜田の言い訳

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瓜田の言い訳

 家に着くまで、瓜田(うりた)は「ですから僕はストーカーではなくて」と繰り返し言い訳を挟みながら、これまでの経緯を説明した。 「ぼくたちオカ研ではその後も調査を続けてまして……虫喰い現象についてSNSで呟いたのは隠里の民宿のオーナーだったんです。ですが虫喰いはオーナーに起きたのではなく、宿泊していた1人にだけ起きたらしいんです。その日の写真が民宿のホームページに宿泊風景として載っていて、どうやらその人が大塚さんを付け回しているようだと……部員の情報を集めるとそのような推測になり……オカ研の男子数名で交代で見張っていたんです。」 「はぁ!?見張ってた? それって、ストーカーでしょ?」  何人もの人に交代で付け回されていたことに、全く気がつかなかった自分が情けなかった。いつも気をつけているつもりだったのに。 「ですから、ストーカーではなく、大塚さんに説明すれば良かったんだろうけど、話せば長くなり、推測で追いかけ回すなんて、話しても信じてもらえないんじゃないかと……念のため、ほんとに念のため見張っていただけなんです!ですので、改めて昼の時間に、明日にでも説明します!怖いと思うんで、明日も迎えに来ますんで!」  瓜田は動揺していて、なぜ隠里にいた男が襲ってきたのか、さっぱりわからなかった。隠里が関わっているとなると、もしかして母に繋がる情報かもしれない。怖い気持ちより謎を確かめたい気持ちの方が強かった。 「喫茶店でもいいですか?」  未藍は、会合場所を相手任せにしてはいけないと思った。  「喫茶店……あんまり行かないんで、よく知らないんですけど、いいところ知ってますか? すみません。」 「駅前のポーチでお願いします!そして、友達も連れて行っていいですか?」 「友達ってあの派手そうな友達ですよね?……スっー(息を吐き)いやぁ、部のみんなは怖がりそうだなぁ。」 「はぁ!?派手そうって失礼ですよね?そして、あなたたちの方がよっぽど怖いでしょ!オカルト研究部ですよ!?オカルト!!」 「ごめんなさい。」  自分の失礼だと思われる発言を瓜田は素直に謝った。  明日の午前11時に駅前の喫茶店ポーチで落ち合うことにし、その1時間前に瓜田が家まで迎えに来ることになった。未藍は瓜田に電話番号は教えていない。まだストーカー説は消えていないのだ。  瓜田に送ってもらい、家に無事着いた未藍は、叔母には誘拐されそうになったことを話せないでいた。 (響子ちゃんの言う通りにしておけば良かった。明日の夜のシフトも断ろう!断るならなるべく早い方がいい)  急いで担当の社員さんに電話をした。 「また〜? 学生は責任感がないのよ! 今からはもう変更できません!!!」  未藍がシフト変更をお願いするのは今回がはじめてだったが、学生の誰かがドタキャンをしたのだろう。ピシリと厳しく断られてしまった。襲われたことを話せばよいのかもしれないけど、今は言えない気分だった。  未藍にとって母に繋がることは全て心の奥の感情と結びついて、鍵かかったように丸ごと話せないのだ。
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