親愛なる自分へ

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親愛なる自分へ

 やあ、元気かい? 十年前の俺よ。  元気じゃねえ、ずたぼろだって?  そりゃそうだ。そいつは俺が一番よく知っていることだったな。  思えば、俺の世代は就職氷河期の煽りを食いまくったよなぁ。悪夢の新卒時代を思い出すよ。  ブラックな環境に耐えきれず、思いっきり病んだっけ。あれは辛かった。よく、立ち直れたなと今でも思うよ。  で。君は今、二番目の会社にて奮戦中というわけだ。  結論から言おう。君はその会社で多大な苦労をしつつも、十年を超す勤続年数のベテランになる。  石の上にも三年ってのは、無責任な老害連中が根拠もなく抜かす戯れ言だと思うのだが、ともかく君は苦痛に耐え続けることになるんだ。  でも、それがいい事だとは限らない。  たしかに、俺は様々な得がたい経験を積んだ。それはよかったさ。でもね。  簡単に言えば、俺は会社に体よくこき使われて、あっさりとポイ捨てされたんだよ。  努力の結果、色々な事ができるようになったがゆえに、何でもかんでも押しつけられちゃってさ。  で、結局パンクしちまったんだわさ。  一度のみならず二度までも、鬱病認定されちまったよ。  ひどいよな、あのアホ社長。  俺に一っ言も相談せずに、俺が育てた部下を他部署に移しやがったんだよ。人員の補充はありません。皆さんの一層の努力を期待します~。だってさ。ざけんな。  普通、一生懸命やってる社員が突然鬱病認定されて、診断書を持ってきたら、まず最初に『大丈夫か?』の一言を言うべきだろう? それなのになんだ! 俺を睨み付けて『会社が原因だと言うのか?』だの『続けられないのなら、部署を変える!』だの。俺の必要最低限なプライドまで、ずたずたにしやがったんだよ! 糞が!  終わったなと思った。俺の中で、何かが切れた。  ここでの十数年間は、一体何だったのだろうってね。  んで、散々悩み抜いて辞めることを伝えたら、引き留められもされなかったんだよ。  ショックだったなぁ。会社の中枢にいたという自負はあったからね。  勿論この十年間、素晴らしいことはあった。  それがどんなことかは、あえて君には伝えない。  ただ、こうして未来を知ったのならば、異なる可能性に挑むべきではないかな?  君はもっと好き勝手やってもいいんだ。  それが、メッセージさ。  あっと。今度は十年後の俺に対してだけどさ。  元気でやってるかい? あと、それ程不幸じゃなきゃいいな。  そうだろう?  そうだと言ってくれよ。  それだけでいいんだ。  頼んだぜ、未来の俺よ!
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