「ねぇねぇ、写真撮ろ?」

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「ねぇねぇ、写真撮ろ?」

バイトの歓迎会に誘われた僕は、一枚の写真に納まることを迫られる。 お酒のせいで赤くなった彼女の顔を、じっと見つめる。 何か言おうとする僕を無視して、iPhoneを宙に掲げる。 僕は女の子と一緒に写真を撮った経験がほとんどない。 遡れば中学校の修学旅行や小学校の運動会、幼稚園のお昼寝の時間など…。 覚えていないだけで実際にはあるのだろうが、それを「女の子と一緒に撮った写真」フォルダに入れてしまうのは、あまりにもぞんざいすぎる。 物心ついてから、「女の子と一緒に撮られている…」と意識してシャッターを押されたことはないのだ。 そんなツーショット童貞の僕が、今まさにカメラを向けられている。 すぐ横に、首を斜めに傾ける彼女。 微妙に触れる肩に神経を100%集中させると、この世の恨み辛みを全て背負った男の顔になって、その瞬間、カシャッという音が鳴る。 写真を確認した彼女に、「も~、最愛の人にお父さん殺されたときの顔してるじゃん~」と言われる。 僕の考えていることが読まれているのか?と少し警戒する。 「じゃあ、もう一枚撮るよ?」と撮り直す。 それは、彼女にとって何てことのない一枚だろう。 おそらく、この後全員とツーショットを撮って、「バイト仲間」フォルダに収めるに違いない。 数ある写真の内の、すぐに削除ができてしまう、たったの一枚。 そんな一枚でも、彼女のiPhoneのアルバムに少なからず存在できていることが嬉しかった。 こんなことまで考えているのは気持ち悪いかもしれないが、僕にとってのこの日のツーショットは、まぎれもなく記念日だった。 「笑ってね?撮るよ」 と君が言ったから 6月6日はツーショット記念日 残念、字余り。 カシャ。 雑念全開で撮られた写真を確認する彼女。 「も~、また笑ってないじゃん!まぁ…もういっか!」と席に戻り、再び飲み直す。 彼女のジーンズのポケットに大切にしまわれたアルバムを、僕はただ目を細めて眺めるだけだった。 こいつ、おれのこと好きなんかな
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