「おっきくなったね」

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「おっきくなったね」

彼女は同じマンションに住む二個上の先輩。 小さい頃はよく遊んでもらったらしいのだが、どうも記憶が曖昧だ。 彼女が都内の私立中学に進んでから、遊ぶこともなくなった。 たまにエレベーターや部屋の前ですれ違うと挨拶をする程度だった。 そんな彼女が、部屋の鍵を開けようとした僕に急に話し掛けてきた。 マンションの六階の廊下。慌てて振り返る。 シンプルに驚いたし、なぜこのタイミングなのか全くわからなかった。 かしこまって会話をするのは本当に久しぶりで、なんだかドキドキしてしまう。 彼女は就職をしたのだろうか。 スーツを着ているところは見たことないが、オフィスカジュアルとやらに包まれているのだろう。 こんな女性のいる会社ならどんなにブラックでも我慢できそうだ。 「大学生?になったのかな?」と訊かれ、「は、はいっ…」と答える。 「制服が変わるたびに、勝手に成長を楽しんでたよ」 ほころんだ表情は外を向いて、横顔が映る。 表情の先には白や茶色の建物が規律正しく並んでおり、ありきたりな風景を形作っている。 その横顔を見ながら、マンションでの日々を思い起こす。 僕も、全く同じだった。 エレベーターに乗る瞬間、部屋に入る瞬間、廊下の手すりから外を眺めてる瞬間。 体を包むものに合わせて成長していく横顔を、ずっと見ていた。 声を掛けようと思ったこともあったが、きっかけがなく勇気が出なかった。 いつかこうなる日を、どこかで心待ちにしていた自分がいる。 このマンションから見える景色は、子供の頃から何も変わっていない。 都市開発が進み、工事をしている景色も随分と長く続いていて、もう見飽きた。 一体いつになったら完成するのだろう、と。 そんなどこにでもある殺風景を眺めながら、彼女は懐かしむ。 「成長してないのは、ここから見える景色だけだね」 彼女もずっと同じことを考えていたんだ。 なびく髪、目、指、その横顔。 とても直視はできず、遠くの街まで視線を伸ばす。 その先にある街の名前も、彼女の胸の内も、何も知らない。 こいつ、おれのこと好きなんかな
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