「HY、歌える?」

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

「HY、歌える?」

高校の頃の同級生と、久しぶりに飲みに行った。 二次会はカラオケ、ありきたりの展開だ。 男子3人女子3人で入るカラオケボックスは、酔いのせいか少し狭く感じる。 隣にはクラスでも明るく、モテていたあの子が座っている。デンモクを渡されたときの笑顔がかわいかった。 履歴を見ると、aikoとクリープハイプがずらりと並ぶ。この子の人生を勝手に想像して、なぜか抱きしめたくなる。 きっと、辛い経験がたくさんあって、その数だけ救われた曲があって。 泣きたくなる気持ちを声に出すことで、自分の存在価値を見出したかったのかもしれない。 この想いは彼には絶対に届かない、誰も私の心の傷なんて癒せはしない。 愛しいだけじゃ足りないし、嬉しいだけじゃ不安定だし、優しいだけじゃ意味ないし。 ただ、声を響かせるだけでいい。 ここまで、全て妄想である。 そんなストーリーを膨らませてたら、彼女がデンモクを覗き込みながら声を掛けてきた。 「あー、歌えるよ」と答える。 「じゃあ、一緒に歌お!」とはしゃぐ彼女。デンモクで曲を探す。 歌ったことは一度もないけれど、聴いたことは何度もある。 歌い出し、どんなんだったっけ?と思いながら曲を入れる。ヤバい、あの曲、ラップもあったかも…と不安になる。 次の曲の表示がされ、タイトルが映る。 「おー!」と盛り上がる一同に対して、首を傾げる彼女。「これじゃない…」と衝撃の一言。軽快なイントロ。仕方なく女性パートも歌う僕。音程が外れる。微妙な空気に包まれ、死にたくなる。フライドポテトを運びにくるバイト。気まずさが増す。調子乗りすぎた。死にたい。 「だからお願い 僕のそばにいてくれないか」と誰かに乞う、歌う。 この願いは、君に届くだろうか。 こいつ、おれのこと好きなんかな
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加