「ブックカバーはおつけしますか?」

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「ブックカバーはおつけしますか?」

「あ、お願いします」と紳士的に答える。 1つ目。 駅前に80坪程の小さな書店がある。 僕のアパートの最寄駅で新刊本を扱うお店はここくらいしかないので、特に用事がなくても毎週通い詰めている。 理由は2つ。 書店の独特な匂いが好きということと、アルバイトの女の子がかわいいということ。 後者の理由が98%、残り2%の前者の理由は、こう言えば文学的且つ感受性豊かなイケメン眼鏡男子のイメージがつくと思っての見栄の氾濫である。 ともあれ、毎日のようにレジに立つ女の子がかわいいのである。 おそらく、年は僕と同じくらい。 近くに住んでいるのか、近くの大学に通っているのか。 レジ越しでの接客マニュアルに沿った会話のみでしか得られない情報だが、きっといい子だ。 学費を自分で払いながら6畳程の安アパートで、あらゆる節約法を実践しているに違いない。湯船の水を3日間替えていなくても、彼女なら許せる。 部屋には大好きな文庫本の小説が山積みになり、次に読む本をジェンガのように抜き取るのだろう。 文学部の僕にピッタリな存在である。 そんな文学少女(仮)にブックカバーを丁寧に折ってもらう。 「ポイントカードはお持ちですか?」 「あ、はい。」 2つ目。 「手提げ袋はご入り用ですか?」 「あ、お願いします」 3つ目。 会話は接客マニュアルの川を流れるように沿う。 毎回同じ問答が繰り返されるため、そろそろ覚えてほしいとも思うが、そこも彼女の真面目で律儀な対応に好感が持てる。 そんなA型少女(仮)に手提げ袋に入れてもらう。 この3つのやり取りの後は未知の世界で、体験したことがない。 なにか隠しコマンドでもあるのだろうか。4つ目の会話を引き出す、裏技やアイテムが。 お釣りの590円と手提げ袋を貰ったそのとき。 「あっ、お客様…」 きたッ!4つ目!! 「ONE PIECE97巻をご購入の皆様に、こちらの特製海賊王シールがプレゼントとなります。またのご来店をお待ちしております。」 嬉しさよりも恥ずかしさの方が微かに上回ったその瞬間、紙とインクの入り混じった本の芳しい香りが、つんと鼻についた。 こいつ、おれのこと好きなんかな
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