漂う手紙

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 ある日、僕の元に妙な手紙が届いた。  その住所や宛名には見覚えのある、僕自身の字で書かれている。けれど、こんなものを書いた覚えはない。一体どういうことだろう。恐る恐る封を切って中身に目を通した。  10年前の僕へ。  悪いことは言わない、今のうちに魚を食べておけ。  今の君なら少しスーパーに足を運ぶだけで、様々な魚たちを安価で買うことができるはずだ。決して、骨があって食べづらいとか、魚油がグリルの中に溜まって掃除が面倒とか言ってはいけない。  今の僕から見て3年前くらい前に、海流の循環がストップして魚たちが日本に来なくなった。もしかしたら彼らは死に絶えてしまったのかもしれない。  様々な研究機関が、魚の養殖に躍起になっているけれど、流通するまでにはまだ時間がかかりそうだ。  だから言う、もう一度だけ言う。今のうちに魚を食べておけよ。 ※あと、この手紙は丁寧に保管して、10年後に今から指示するポストに投函してほしい。では、よろしく頼む。  僕は呆然としながら、その妙な手紙を眺めた。  どうやらこいつは、マグロのようにグルグルと時の海流に乗っているようだ。
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