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――10年前。
「もう、駄目だ・・・」
俺は今、死のうとしている。
夢や家族、俺には何も無い。
橋淵から見下ろすといつもの川も少し違ってみえる。
河川敷に並ぶダンボール、俺はその中の一つで生きていた。
いつも見上げると、大きな橋が見える。
俺は死ぬ時はあの上からと決めていた。
「おぉ!兄ちゃん、うどん食いに来んか!?」
振り返ると割烹着の爺さんが立っている。
俺はあれよあれよという間に、爺さんの店に放り込まれていた。
中は常連客でいっぱいで萎縮していると、爺さんはカウンターから『何しとる!はよ前来い!』と手招きしている。
「今日は跡継ぎ決まった祝いや!兄ちゃんかき揚げ二枚付けたるわ!」
「でも、お金・・・」
「ならまた食べに来てくれや!」
こんな不思議なうどんは初めてだ。
温かいうどんを口いっぱい頬張る度、目から水が溢れてくる。
俺はこの味と、この気持ちを一生忘れない。
Fin.
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