マリッジブルーと笑う君

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◆◆◆  先日、彼女は彼にプロポーズした。  付き合い始めて十年。こんなに長く一緒にいられる人もいないだろうと熟慮の末の決断だ。彼の返事はOKだった。  しかし幸せなはずの彼女の心は言い知れぬ不安で満ちていた。彼は本当に私でいいのかな。そんなことばかり考えてしまう。  思い出を振り返ろうよ。  彼の気持ちを確かめたくて、彼女はそう言った。  そして、ここからが本番だ。 「……もしさ、十年前に戻れたら、どうする?」    訊いてしまった、と彼女は少し後悔の念に苛まれた。「え、うーん……」と彼は腕を組んで考える。  言葉にしてしまった以上もう後戻りはできない。そうわかっていても、どうしようと考えてしまう。  ――どうしよう、もしも。  これまでで一番大きな不安が彼女を襲った。  もしも他の子に告白してた、とか言われたら。 「あ、そうだ」  やっぱり訊かなきゃよかったかも。  彼女は今すぐ両手で耳を塞ぎたくなった。しかし彼はそんな彼女をよそに間の抜けた声を出す。 「ちゃんと水くらい持っていきなよ、って伝えたいかな」  彼は笑って答えた。少し遅れて、彼女も笑う。  そうだった、と彼女は思い出す。  この十年、私たちはいつもそうやって過ごしてきた。 「ねえ」 「ん?」 「結婚しよっか」 「この前言ったじゃん」 「そうだっけ?」    辛いときや悲しいとき、怒ったときや不安なとき。  何かあったらそのときは、二人で笑い飛ばせばいい。 「我ながらいい人を見つけたな」 「見つけたの俺じゃなかった?」 (了)
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