拝啓 10年前の私

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 帰りをひたすら待っていたがまた夫は帰って来ず私は眠れなかった。 涙はとうに枯れた。 空が白む明け方に私は一枚の便箋を取り出し気付けば過去の自分に手紙を書いていた。  未来ならばともかく過去の自分に手紙を出すなんて不可能だ。堪らず自嘲したがそれでも書いた文を丁寧に折り引き出しに入れた。  夫との出合いは職場。妻子持ちだがイケメンの上司にアプローチされたのが嬉しくてついつい欲に溺れていったのが20年前。10年間密かに愛を育んだ末に結婚。  結婚を期に退職し一人家で彼の帰りを待つ間も彼の奥さんについに勝ったんだと優越感に浸って幸せな日々だった……。彼が他の女に手を出すまでは。 見て見ぬふりをして目をふさいだ。 幸せは一人寂しく泣いて過ごす日々に変わった。  『 ただいま 』 『 おかえりなさ……い 』  ぼんやり時を過ごしている内に久しぶりに夫が帰ってきた。嬉しくて飛んで玄関に出迎えて夫の纏う他の女の香に気付いて後悔した。  何を話、何をしたかは覚えていない。 気付いた時には雨の中、ベランダに出て10年前の過去の自分に届きますように。と書いた文をライターで燃やしていた。 私の涙は枯れたのに 雨はやまない。
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