おじいハサミ

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 ゆうくんよ。きみの小さな指がわしの指穴にかかったとき、この子が健やかに元気に大きくなりますようにと願ったものじゃよ。  初めてのハサミにわしを選んでくれてありがとう。ママと数あるハサミをじっと見つめ、真剣に探しておったの。水色の持ち手が気に入って、わしを選んでくれた。  水色の持ち手に『かんばら ゆう』とママに名前を書いてもらって、輝かせた目。わしは今も忘れんよ。  もう、立派に大きくなって。高校生になるんじゃな。こんなに大きくなったきみを見られるとは、わしも思わなかった。幸せな人生じゃった。  ゆうくんよ。思えば、たくさん切ってきたのう。  きみは、この家いちの暴れん坊じゃったからな。わしは、若い頃から無理をさせられたもんじゃよ。  ママがそんなものは切れないよと言うのに、きみは「水色ハサミは何でも切れるもん」と言って、いきなり竹を切り出すもんじゃから。  わしは大変じゃったよ。汗をふうふうかきながら、なんとか切れたの。きみも辛抱してよく頑張った。  ゆうくん、きみは、なんでもかんでもわしで切ろうとするから、わしはオレンジジュースの果汁でベトベトになったり、固いものばかり切ろうとするから刃こぼれはひどかった。  でも、毎日がとても楽しかった。  わしは、きみに選んでもらえて、本当に幸せじゃった。  もう、寿命じゃ。  刃はボロボロで切れんし、ねじは今にも取れてしまいそうじゃ。  切れぬハサミはハサミじゃない。きみと十年一緒にいられて、良かった。  ありがとう。  十年後、きみが立派な大人になっていることを祈っておるよ。
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