おじいハサミ

2/2
前へ
/2ページ
次へ
 ──蒲原優は高校生初日の朝、探し物に追われていた。 「母さん、ちょっと待って。水色のハサミは?」 「え? 壊れたって言ったじゃない。ゴミ出しちゃったわよ? まだ収集車は来てないけど」 「壊れたって言っただけだよ。捨ててなんて言ってない」  優は、寝癖を直すのを後回しにして、玄関へ駆けた。  結ばれたゴミ袋をほどき、中を漁る。訝しがるご近所さんに苦笑いを浮かべながら、袋の奥からバラバラになってしまったハサミを取り出した。  もう、刃は錆び、目で見ても刃こぼれが分かる。薄くなった『かんばら ゆう』の文字が目に入る。  優は取れてしまったねじを回し、ハサミの形に戻してあげた。  使いものにはならないだろう。でも、そんなことはどうでも良いのだ。  優は水色のハサミを鞄に入れ、新品のローファーに足を入れた。 「行ってきます!」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加