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──蒲原優は高校生初日の朝、探し物に追われていた。
「母さん、ちょっと待って。水色のハサミは?」
「え? 壊れたって言ったじゃない。ゴミ出しちゃったわよ? まだ収集車は来てないけど」
「壊れたって言っただけだよ。捨ててなんて言ってない」
優は、寝癖を直すのを後回しにして、玄関へ駆けた。
結ばれたゴミ袋をほどき、中を漁る。訝しがるご近所さんに苦笑いを浮かべながら、袋の奥からバラバラになってしまったハサミを取り出した。
もう、刃は錆び、目で見ても刃こぼれが分かる。薄くなった『かんばら ゆう』の文字が目に入る。
優は取れてしまったねじを回し、ハサミの形に戻してあげた。
使いものにはならないだろう。でも、そんなことはどうでも良いのだ。
優は水色のハサミを鞄に入れ、新品のローファーに足を入れた。
「行ってきます!」
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