雪女は強情らしい

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「貴方の魂が欲しいんだけど、いいかしら? え、いいの嬉しい、ありがとう!」 「おいこら勝手に話を完結させるな雪女」  いきなり窓から家に上がり込んできたそいつは、何を言うかと思えば突拍子もないもので。  確かに俺はあやかしが視えるし必然的に妖力は強いけど、魂をここまでどストレートに要求してきたのはこいつが初めてだ。 「ほら、代わりに私の愛をあげるから」 「それ魂取られたら意味なくないか?」 「あら、ちょっと勘が鋭い」 「馬鹿にしているだろ?」  そんなの考えなくてもわかるわ、もう少しまともな条件を出せ。 「じゃあまともだったら、くれるの?」 「やらん」 「ケチー」  顔を膨らませながらそっぽを向いた雪女はつまらなさそうに目を伏せると、どうすれば魂をくれるの、なんて真面目な顔で恐ろしい事を言っていた。いや、どうしようがやらんわ。 「そもそもどうして俺の魂なんだよ、俺以外にも妖力がある奴は沢山いるだろ?」 「貴方じゃなきゃだめなの!」 「うお!?」  急に押し倒されたと思えば、目の前にあるのはどこか悲しげな雪女の顔で。そんな、明らかに俺が被害者なのに泣きそうな顔をするな。こっちが罪悪感でいっぱいになるだろ。 「俺じゃなきゃだめって、そんな事」 「だって貴方の事が!」 「俺の事が?」 「っ!」  言ってしまったとか、言いすぎたとか。  目に見えてわかるくらいに感情を表情に出す雪女は、目をぐるぐるさせながら言葉を選んでいるようだった。 「え、あ、えっと」  右へ下へ、左へ上へ。  やり場の失くした視線は次々と変わっていき、雪女とは思えないくらいに顔を真っ赤にして―― 「き、きょき、今日のところは帰る!」  限界がきたのか、脱兎のごとく窓から帰って行った。 「もうこなくていいぞー」 「またきましゅ!」  だめだ、舌回ってないじゃん。 「あぁあと、魂取ったら俺死んじゃうからなー!」  最後のそれは、聞こえたのかわからない。  けれども彼女が去った後の部屋は、くる前よりも若干優しい香りで包まれていた。  さて、こんなやり取りを繰り広げていたのはだいたいざっと十年前。    それから、どうしたって?  今日も元気に窓を使って、押しかけているよ。最近は律儀に手土産も持ってな。  ただ一つ変わった事と言えば、あの時みたいに魂を欲しがるのでなくて俺自身を欲しいと言うようになった事。まぁ死なずにすんだし、これで安心―― 「…………いや、十年で毒されているぞどっちみち嫌だな!? 頼む気づけ十年前の俺!」  
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