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私は今、高校卒業式の後、校舎の端にタイムカプセルを埋めるイベントの為、10年後の自分に手紙を書こうとしている。
教室では、クラスメイトがキャッキャと未来の自分に宛てた手紙を書くのに笑顔ではしゃいでいた。
……楽しくて明るい未来想像してるんだろうな。
私はため息をついた。
私は、何にも書くことがない。
ネガティヴで、人の言動に気を使い、本音を喋る事も出来ず、人に合わせて、ニコニコしてるだけの、そんな女子に、明るい未来なんてあるワケがない。
未来の自分?
結婚もできずに、暗いアパートに一人暮らししてそう。
フッと鼻で笑うと、私は便箋にシャーペンでタイトルと名前を書く。
"10年後のキミへ" 伊澤洋子
始まりは何て書こうかな。
少し思い悩んだけれど、そのまま、書いた。
"あなたは、陽の当たらない暗いアパートで、バイトをしながら、1人暮らししてるんじゃない?
今の私と同じように、人生を後ろ向きに考えているのかな?
人の事ばかり気にして、自分の思った事をキチンと話せていないのでしょうね?
本音を話せば、他人にどう思われているのかばかり気にして疲れているよね?
それから、相変わらずニコニコ人の話に相槌を打っているのが想像つきます。
結婚どころか、彼氏もいないでしょう?
もし、出来たとしても「お前は暗いヤツ」と言われて、きっとすぐに別れている事でしょう"
シャーペンを止める…
「…」
文字にして気がついた。
全部、自分が少し勇気を出せば変われる事ばかりなんじゃないかって。
私は書いた手紙を全部消しゴムで消した。
それから、もう一度書き直す。
"洋子、あなたは、今の私とは違い、明るい日差しのあたるお部屋で、結婚して、家族と一緒に過ごしていると思います。
あなたは、ポジティヴになって努力してるから、本音で話せる友達が出来て楽しく過ごしているんでしょうね!
自分の思った事を、思いやりを持って人に話せているんじゃないから、きっと相手に伝わってるよね。
だから、大切な言葉は、相手も心から分かってくれる。
本当の笑顔で他人と向き合えている事を想像しています"
私は唇の端を少し上げた。そして、文を付け足す。
"10年後のあなたになれるように私は今を頑張ります!"
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