5人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ、十年後には僕達みたいな男同士の恋愛が普通になってるかな?」
いつも突然始まる恋人の話。
今日は十年後についてのようだ。
でもどんな未来の話をされても俺の答えは決まってこうだ。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないな」
「またそれ…」
いつもの答えに文句は言えど、恋人からの質問が止まることはなかった。
いくつかの質問の後、珍しく不安げな顔でこう尋ねてきた。
「十年後も僕達、一緒かな?」
その質問に俺は揺るぎない肯定を示すべきなのかもしれない。
でも返した言葉はいつもと同じだ。
「一緒かもしれないし、そうじゃないかもしれない」
その言葉に流石に言葉を詰まらせている。
戸惑い不安げに揺れるその瞳を安心させられるかはわからなかったが言葉を続けた。
「未来は不確かだ。何かが生きてて、何かが死んでいくことすら確かじゃない。そういう不確かなところに思いを馳せるのは苦手なんだよ。でも一つ確かなことがある」
「…何?」
「今の俺はお前が好きだってこと」
その言葉と共に頭を軽く撫でても浮かない表情のままだ。
俯いていく頭に少し心配になり顔を覗き込むと笑みを堪えているのがわかった。
撫でる手を少し強めてわしゃわしゃとする。
そこでようやく俺の好きな恋人の笑顔が帰ってきた。
「十年後の僕も好きって言って欲しかったんだからね」
「それは十年後の俺に託すよ」
最初のコメントを投稿しよう!