十年間変わらない俺の本質

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 自分自身がどういう人間なのかはよく分からないものである。自分という人間の本質とは何か。ある時期何かに熱中していてそれこそが自らの本質であると思っていても、一年も経たない間に飽きてしまっていたりする。  国内の大手家電メーカーに勤めだして四年。私はまた人生の意味を見失いそうになっている。だから今こそ私は自分の本質を知りたいだ。十年経っても変わらない本質を。  転職を考えている。  会社の業績が芳しくない。コロナ禍の影響で景気は悪化。東京五輪が終わった後に急降下するだろう日本経済の中でこれからどうなるか分からない。  しかしこの会社を飛び出してどんな会社に転職すべきなのか。  それを知るためにはまず自分の本質を知ることこそ肝要だと考えたのだ。  さて、そんな私に千載一遇のチャンスがやってきた。  十年経っても変わらない自分の本質は何かという問いに対する答えを明らかにするチャンスが!  今、私の目の前には、タイムトラベルしてきた一六歳の私と、三六歳の私が座っている。まさに奇跡!  この三人の共通項を見つけられれば、私の本質が――   「本日はお集まりいただきありがとうございます」 「十年後の俺ってそんな社会人ぽいんすね。スゲ。二十年後の俺もハゲたりしてないじゃん、ホッとしたわ」 「まぁ、俺は大体覚えているけどな。十六の俺、イキってるなぁ」  さすが俺。あまり人の話を聞かない。 「さて本日は、私たちが十年経っても変わらず好きなもの――本質を明らかにしたいと思います。早速ですがお二人に質問です。今、一番お金を使っているのは何ですか?」 「エロゲ」 「エロ同人 ――で、お前は?」 「……AVですね」  これは変わっていないと言って良いのか。 「では、女性を魅力的にする、最も重要な体の部分は何?」 「クビレ」 「クビレ ――で、お前は?」 「……愚問、クビレです」  ついつい意気投合してしまいそうになる。    高まるボルテージに私は我を忘れた。  タイムトラベルの制限時間が終わる頃には、私たちは二十年経っても変わらぬ性癖に感銘を受け、お互いに手を取り合っていた。  やがて二人の姿は薄れていき、私一人が取り残された。  自らの本質に触れられた気がした。  その感動は私の奥底を動かして知らない間に涙が頬を伝っていた。  一人になった私はふと気づく。  触れた自らの本質(性癖)は特に転職活動と関係ないと。 「――まぁ、そんなこと、どうだっていいじゃないか」  ふと見上げた空は晴れ渡っていた。 <完>
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