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いつか永遠になるように
十年後の自分に、お手紙を書きましょう!小学校の道徳の授業では、ありふれた課題だ。
問題は。そのお題に対して、非常にネガティブな考えしか持てない生徒も時にはいるということ。
私が受け持つクラスにも、まさにそういう子が一人いた。富田魅子ちゃん。彼女の原稿用紙は、“十年後の私へ”という一文だけで止まってしまっている。
「魅子ちゃん。お手紙書くのは、苦手かな?」
私が言うと彼女は――ふるふると首を振った。そのたびに、彼女が座っている車椅子がきしきしと音を立てる。
「……苦手じゃないけど、でも。存在しない人には、書けないし。私、きっと十年後には……生きてない、から」
彼女の病気は、今まで聞いたこともないような長い長い名前の難病だった。
今は学校に来ることができているが、それもいつまで続くかわからない。いつか、車椅子での移動もできなくなるかもしれないと聞いている。十年後に生きている可能性も、普通の少女達よりずっと低いものであるのだろう。
だから、手紙が書けない。
当たり前の課題が、彼女にとってはどれほど残酷なものであるか。私もわかっていないつもりではないのだ。
しかし。
「……魅子ちゃんは、作家になるのが夢だって言ってなかったっけ。死んじゃう前に、作家になりたいって言ってたよね」
「言ったけど……無理だよ。十年後じゃ、魅子はまだ大人になってないし……」
「未成年で作家になった人もいるし、応募できるコンテストとかもあるよ。それに、本にならなくても、今はネットがあるでしょ。そうやって発表した魅子ちゃんの作品は、魅子ちゃんが死んでもずーっと残ると思わない?」
きっと生きてるよ、なんて言葉に意味はない。
生きていたいと思っているのは、彼女も同じなのだから。ならば、その気持ちがもっともっと強くなる言葉を自分は言おう。
私は彼女の手を握って、告げるのだ。
「魅子ちゃんの心は、作品の中で永遠に生きる。なら、その十年後も百年後も残る魅子ちゃんの“心”に向けて、お手紙を書くのはどうかな。ひとりでも多くの人に、その心が届くことを願ってさ」
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