7人が本棚に入れています
本棚に追加
長い時を一緒に過ごしたけど、杏里はこの日、初めて僕を連れて外出した。
やってきたのは、近所の神社。
杏里は巫女の前に立つと、彼女に僕を差し出した。
「これを……お焚き上げしてください」
口ではそう言いながら、杏里は、中々僕を手放そうとしない。その手は、震えていた。
だから、僕は、隙をついて君の手をすり抜けた。
ありがとう、杏里。でもね、もう、充分だよ。ゴミとしてまとめてしまえば済んだのに、わざわざ、神社でお金をかけて火にくべてくれるなんて。
僕は日記に過ぎないのに、なんて愛され者なんだろう。
これから、ものすごく熱くて苦しくて痛いを思いをするのだろうけど、不思議と恐れはなかった。
ねえ。泣かないで、杏里。
君の選択は、間違っていないよ。
これから先、君は一人で抱え込んではいけない。日記にしか書けないようなことばかり増えていくのは、夫婦にとってあまり良くないことだろうから。
これから先は、なんでもNに打ち明けるようにするんだよ。今までの君が、僕に打ち明けてくれたように。
すぐには難しくても、十年後にはきっと。
今まで楽しい話をたくさん聞かせてくれてありがとう。願わくば、来世は、人間として君の話を受け止めたいな。
【完】
最初のコメントを投稿しよう!